3ヶ月前に俺を振ったクール系毒舌女子がチラチラと見てくるけど、後輩とゲームやってるからこっちみんな
巫女服をこよなく愛する人
第1話
暦の上で夏という季節が終わりを迎えた10月頭。
昼飯を食ってそのまま、窓際の一番後ろの席で、俺は後輩の女子とゲームをやっていた。
「今日も暑いっすねー」
目の前には大股を開けて反対向きに椅子に座る後輩の女の子―――三碓(みつがらす)奈緒(なお)。
窮屈そうにシャツのボタンを上から3つまで開けて、その白い肌と黒のブラをこれでもかとチラ見せしてくるが、本人はそれを気にする様子もなく、話ながらもボウテンドースイッチの画面に集中していた。
赤みがかった煉瓦色の、ゆったりとしたミディアムボブ。
目はくりんとして丸く、鼻立ちもすらりとしている。どこか保護欲を掻き立てられるような可愛い系ギャルだが、その割に化粧っけが薄い。
とはいえ化粧がないから不細工、ということもなく、むしろ見てくれはかなり良い方だ。この教室の男子に何回か軟派染みたことをされているのを見たこともある。
まあ、見てくれは良いから納得だ。
そう、見てくれは。
「知ってるか? この残暑、今月末まで続くらしいぞ」
「マジっすか。衣替えもそのくらいっすかね?」
「まあ、今年は特に暑いから10月末から11月初めにかけてって言われてたな」
「つまり、私はそれまで先輩に黒ブラを見られなきゃいけないんすねぇ」
「ぶっ………」
「あ、顔赤くなってる! 先輩かわいー」
「――――うるせえ。唐突に女子高のノリで話すんじゃねえよ。鳥肌立っちゃうだろうが」
「ちょっと、それは流石に傷つくんすけど……」
三碓は口元をとがらせて、不満を露わにする。良い奴なんだけれど、偶にこうやってからかってくるのが玉に瑕だ。
三碓とは気が合うので、気の置けない後輩ではあるのだが――――、こいつはちょっと性癖がアレだった。
「あ、ちょっと、ねえ先輩、この子、めっちゃエロくないっすか……?」
三碓はゲーム画面を俺へと向けてくる。
そこに映っていたのは――――、全裸で足を開きながら、頬を赤らめる少女だった。所謂エロゲーのエロシーンだった。
ボウテンドースイッチに移植された、R18指定のゲーム。それも、抜きゲーとして有名なものだった。
ちなみに、ジャンルはNTR。それも寝取られ系ではなく、寝取り系である。こいつの将来がちょっと本気で心配だった。
「お前、学校の教室でやるゲームじゃねえからな、ソレ」
三碓は百合とかレズとか、そう言われる人種である。
知り合ったばかりの今年の春先のころは、見た目も性格もこんなやつじゃなかったはずなのだけれど……。おかしいな、どうしてこうなったんだろう。
「むー。先輩こそ、来年は大学受験っすよね? ゲームなんてやってる場合じゃないっすよ」
「いいんだよ。俺は優秀だからな。何もしなくてもそこそこの大学くらいはいける」
「うわー、流石は模試学年一位。言うことが違うっすね……」
「今までの努力の貯金(せいか)だよ。いいからその画面をこっちに向けるのをやめろ。俺まで勘違いされる」
これだけ大っぴらにしていては、三碓が
………まあ、もう手遅れだろうが。
「ちぇー。先輩、ほんとに男っすか? こんなシーン見たら即勃起物でしょ。実はもう勃ってるとか?」
「セクハラで訴えるぞテメェ」
「ちょ、冗談っすよ、冗談!」
そう言うと、三碓はボウテンドースイッチの画面を見ながらにやけ面を晒す作業に戻った。
俺も俺で、ボウテンドースイッチへと視線を戻す。
最近はまっているボウテンドーが開発したカードゲームで、その特徴はPCのMMORPGの素材収集をスイッチ端末で行えるというもの。これのためだけにバイト代を注ぎ込んでポケットWi-Fiを契約しているくらいにはハマっている。
収集効率はそこまで高くないが悪いわけでもないし、外でできると言うのがなかなかいい。しかも、カードゲームの対戦形式で集められるのもポイントが高い。
素材集めって作業になりがちだから、こういうのなら飽きずにいくらでもできる。
「先輩、先輩」
そうしてしばらく無言でゲームをやっていると、三碓から声をかけられた。
「ん、そろそろ時間か?」
ボウテンドーの時計を見れば、13時手前に差し掛かる頃だった。午後の授業は13時15分からなので、そろそろ三碓は教室に戻る時間だ。
「それもあるんすけど………、気にならないっすか?」
「なにがだよ」
またブラが、とか言うんじゃねえだろうな、こいつ。そうだったら殴る。
「あれっすよ、あれ」
俺が密かに拳を温めていると、三碓は視線だけでそちらを見るように促してきた。
それに誘導されて、俺は教室の廊下側へと顔を向けた。
そこにいたのは、赤縁の眼鏡をかけた長い黒髪の少女だった。
興(おく)ヶ原(はら)鈴香(すずか)。
ほっそりとしたモデル並みのスタイルを持つ彼女は、俺に次いで学内模試2位をキープしている才女だ。
クラスでいうところの立ち位置は、トップカーストと対を為す位置とでもいえばいいか。所謂オラオラ系とは一線を画しながらも、独自のグループを作っている。
そのグループは、女子だけで固められているおり、一学期終わり頃に知ったことだけれど、彼女は極度の男嫌いらしい。
そんな彼女が、チラチラとこちらの様子を窺うようにこちらを見ていた。
すると一瞬だけ目が合って、彼女はすぐさま視線を正面に戻す。
「何か用っすかね」
「――――-―――さあな」
そっけなく返すと、俺はゲームへと意識を戻―――――そうとしたが、無理だった。
彼女を見ると、三か月前を嫌でも思い出させられる。
―――――――私、ストーカーの被害にあってるんです。
「……………あのさ、三碓」
「え、どうしたんすか? 先輩」
「…………吐きそう」
「え゛っ」
そう言っている間にも、俺の胃の内容物が段々と食道をせりあがってくる。
俺は三碓を置いて椅子から立ち上がると、トイレへと歩いて――――、すぐさまそれは駆け足へと変わっていった。
「先輩、放課後、また部室でー!」
教室を出る間際、三碓の言葉を受けながら、俺はトイレへと全力ダッシュをかますのだった。
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