永遠の僕

神無木メイ

第1話 永遠と出会いと理解

小さい頃、まだ何も知らない頃、この世界は輝いて見えた。


全ての物には終わりがあると知った時、この世界は儚いものに見えた。


僕には終わりがないと知った時、この世界はひどくつまらないものに見えた。


15の誕生日を迎えた日、両親から告げられた。私たちには終わりは無いのだと。死なないと、死ねないと。


確かに不思議なことが今まで何回かあった。怪我が治るのが異様に早い。小さい頃はそうでもなかったが今ではナイフで指を切ったとしても、血は数秒で止まるし傷は1時間後には無くなっている。


親が言うにはそれも「死なない」という効果のひとつらしい。


その後も親達は結婚のことや職のことなどを話しているが特に聞いていなかった。いや、聞きたくなかった。


――― 俺は普通ではなかった。


このたった一つのことが、痛い。


痛いけど、何故だろう。自分が死なないということはすんなり受け入れられた。


誕生日後の残りの数ヶ月は、特に何もせずにすごした。部活も既に終わっていたし高校も至って普通の、近くの高校にした。卒業式は休んだ。どうせ行っても意味が無い。


いつかみんな死ぬんだから。


そしてこの世界から色が消えた。

世界が、とてもつまらない物に思えた。

それでも高校に入ったからにはやるべき事はやらないといけない。勉強もするし、友達もつくった。部活も始めた。


将来生きてく上で絶対に必要なものでは無いがやった。


少し、望んでいた。色が消えた世界に勉強が、友達が、部活が、色をつけてくれるかもと、楽しませてくれるかもと。


――― 無理だった


どこまで一生懸命やろうとしても楽しもうとしても熱中しようとしてもダメだった。


僕の中でもう1人の自分が叫ぶ。「お前は普通ではない」と。


どこまで行っても隣にいる彼らとは違う。それが痛く、辛い。


痛くて辛いから、学校を辞めた。

先生や友達にも何も言わなかった。


学校に行かなくていい日々は良かった。

人との違いは感じないし、何より気がとても楽だった。

親は特に何も言わなかった。

まぁ、理由は何となくわかる。


学校に行かなくなってから2週間がたった。

最初は気楽で楽しいと思っていたが次第に飽きてくる。ゲームもやり尽くしたし、することが無くなってくる。


こう考えると学校って飽きることは無いしやることは毎日違うし意外と凄いところなのかもしれない。

行かんけど。今更行けないし。


くだらないことを考えていると玄関のチャイムがなる。


「すみませーん」


モニターを覗くとそこには見覚えのある顔が映る。クラスの委員長だ。めんどくさいし無視だな


切れるまで待って戻ろうとすると彼女が叫びだす。


「おーい!居ますよね!あーけーてー!!」


ドンドンドンとドアを叩きながら玄関前で叫びだす。


「おい!やめろ!」


「あっ、出てきたー!」


外に出ると彼女はわーいと子供のように喜んでいる。


「わーいじゃない、近所迷惑だろ!」


そういうと彼女は突然顔を強ばらせて考え込む。


「おい……どうした?」


彼女は周り気にしながら小さい声で囁く


「―――確かに」


それだけかよ。もう遅せぇよ。


そんなツッコミを飲み込んで疑問だったことを問う。


「で?何しに来たの?」


「よくぞ聞いてくれた!」


「うるさい」


「ごめんなさい……」


ずり落ちた眼鏡をクイッと上げてこちらを見上げる。


「学校に行きましょう!!」


「断る」


「即答っ!?」


当たり前だ。どうして今更学校に行かなければいけないのか。どうしてまたあの気持ちを味あわなければいけないのか。


「なるほど、意思は固いようですね」


突如フッフッフと笑い出す委員長。


「なら私は!あなたが来るまでここにいます!」


「頑張れ」


ドアを閉めて部屋に戻る。後ろで誰かが何かを叫んでいるが無視して進むことにした。


1時間ほどゲームをして、喉が渇いたので下のリビングへ向かう。すると、リビングから声が聞こえてきた。親が帰ってきたのか?


「母さん帰ってたの?」


「あー!やっと降りてきた!」


「うげ」


そこには帰ったと思っていた委員長と、母が座っていた。


「なんでまだいるんだよ……」


「あなたを学校に連れていくと決めましたからね!」


「なんでそこまで……」


正直分からない。委員長だから?でもサボろうと思えばダメでしたと言えばいいし、ここまでする必要は全くない。


「知りたいですか?教えてあげましょう」


それはですね、と勿体ぶった前置きをしてこちらを見て言う。


「学校は楽しいからです」


「は?」


「学校だけではありません。学校は以外も、日本も、世界も、楽しいからです。」


だからここに籠るのは勿体ないと、そう彼女は言う。意味がわからない。


「残念だが君が楽しいと思えることを俺は楽しいとは思えない」


「なぜです?」


なぜって、そんなもの決まっている。この世界がそういうものだからだ。この世界にあるものは全ていつか死んでなくなる。自分以外は。そんなものを楽しいとは思えない。


「そういうものだからだ」


でも、自分が死なないことは言えない。

言ってはいけない。


「死なないからですか?」


「!!」


「なるほど、そういう事ですか」


「―――どうしてお前がそれを知っている」


「お母さんに聞きました」


母親の方を見るが母はこっちを見ずに静かに目を閉じている。


「あなたは楽しいもの、好きなものがいつかなくなってしまうことを怖がっている。違いますか?」


「……」


「その気持ちはわかります。ですが―――」


「―――わかる?」


理解ができると?この気持ちが?死なない。死ねない。失うのが怖い。そして何より、人と関わって違いを感じることが怖い。


「お前に分かるはずがないだろ!いつでも死ぬ事が出来るお前に!!」


「いいえ、分かります。あなたは怖がっているだけです。人と違うことを」


「でもそれだけです。それの何がいけないんです?みんな一人一人違うのに」


「死なないがそんな一般論で通じると思うか?理解されると思うか?」


絶対に理解されない。分からないから怖がられ避けられるに決まっている。人は自分が分からないもの、理解できないものに恐怖を抱くという。その対象に自分がいることなど明白だ。


「相談も打ち明けることもせずに理解されないと決めつけですか。傲慢ですね」


「は?」


「理解されたいと思いながら理解されないと決めつけ、勝手に諦め自分の可能性を潰していく。楽しいですか?それ」


「バカにし―――」


「楽しくなんて、ないですよね」


「どうせ生きるんです。楽しいことをしましょう。友達と笑いましょう。悲しいよりは楽しいがいいでしょう?」


この人はきっとどこかおかしいのだろう。行動原理が、それは楽しいか、楽しくないかで動いている。


「でも、それでも俺はもう何も楽しいとは思えない」


「人と違うからですか?じゃあ理解してもらいましょう。しっかり話して受け入れてもらいましょう」


「そう簡単に信じてもらえるわけが無い」


そうでしょうか、と首を捻る


「あなたのお母さんに言われただけの私が信じてるのです。大丈夫。みんな信じてくれます。そして理解してくれます」


「いや……」


「ここから先は自分で決めてください。私は学校で待ってます」


彼女は急に席をたちお辞儀を一度して玄関へ向かう。


「私はあなたが学校に来てくれるのを楽しみにしています」


「どうして」


「楽しそうだからです!」


そう元気に言い残して家を出ていった。


意味がわからない。なぜ彼女が自分に構うのかも、なぜ死なないなんて突飛なことを信じられるかも、なぜこんなにも自分を外に出したいかも。


「どうして、彼女に言ったんだ?」


母が言わなければただの不登校ですんだかもしれない。なのになぜ。


「私もね、初めに知った時は今のあなたと同じように学校に行くのが嫌だったわ」


母は目を開けてこっちを見ながら話す。


「でもね、私は学校に行った」


「だから俺も行けと?」


「ううん、私はお母さん。あなたのおばあちゃんに言われて無理やり行ったの。」


はぁ、と深いため息をして遠くを見る。


「結局私は学校に行って良かったと思ってる。友達とワイワイするのはそれなりに楽しかった。」


「でもね、やっぱり付いてくるのは疎外感。あぁこの人たちとは違うんだって思っちゃう。」


でも、


「あなたには理解してくれる人がいる。理解して、それでも一緒にいたいと言ってくれる人がいる。それがどれだけ幸せか、あなたは分かっていない」


「―――選択しなさい。逃げるのは今日で終わり。あなたはいい理解者がいる」


逃げるというのは学校を休むことか。

いや、怖いから学校に行かないとなし崩しでなったことか。


「……部屋に戻る」


別に部屋に戻って何がしたかったでもない。

ベッドに寝転んで考える。幸い考える時間は多くあるのでゆっくりと考えられた。


人生は選択の連続だという。確かに一度選択することから逃げてしまった自分は人生を諦めてるところがあったのかもしれない。永遠にある人生を。


選択によって未来は変わる。幸せになるか不幸になるか、もしくはもっと辛い未来かもしれない。


でも、


―――悲しいよりは楽しいでしょ


最後に楽しいと感じたのはいつだろう。

こんな世界でも楽しめるだろうか。

でも彼女なら、楽しませてくれるかもしれない。

そんな勝手な希望持って、その日は寝た。



アラームがなる。朝ごはんを食べて顔を洗い制服に着替える。


あの日の次の日、俺は学校に行った。みんなから白い目で見られると思っていた俺は教室の中に入った時なぜか盛大な祝福を受けた。みんなが俺のことを心配してくれていたらしい。


まだこの世界が美しくは見えないけれど、美しいものも大事なものもできた。


「ねーねー!この後どこ行くー?」


「どこでもいいよ、どこ行きたい?」


「えーどしよ、迷うなー」


あの後委員長と俺は付き合うことになった。彼女は死んでしまい、いつかこんな時間も思い出になるのは分かっている。

でも、だからこそ今の時間を楽しみたいと思う。
















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