第9話 僕
「……た」
「あ……た」
「あな……!」
「あ な た !」
妻の声が聞こえる。
「お父さん!」
娘の声が聞こえる。
僕は体を揺すられている。
ゆっくりと目を開ける。
少しづつ目は開いていくが、視界はボヤけている。
「あなた!」
妻はおそらく、泣きながら言った。
「おはよう」
かすれた、しかも小さな声が僕の口から漏れる。
妻は僕に覆いかぶさるように、抱き着いてきた。
大声で泣く娘の声が聞こえる。
僕は目覚めたのだ。
どうやら僕は事故に遭い、植物状態になっていたようだ。
そのままでは意識は戻らないレベルだったが、最新技術の被験者になれば目覚めるかもしれないと言われ、妻は同意したようだ。
ロボットに意識を飛ばし、身体を動かしたときの刺激を、強制的に脳に送るという技術だった。
試合以外は、目の前の人の動きを真似していたのも、真似をしていない時は映像を見たり、会話を聞いたりしていたのも、植物状態になった僕の脳に強制的に刺激を送るためだったのだ。
試合に出たのは、恐怖や勇気といった刺激を脳に与える他に、僕の意識が戻っているかのチェックのためだったようだ。
あと、ファイトマネーが出ることから、妻たちの生活費の足しにもなったようだ。
ちなみにあの試合は、実際に行われている異種族混合の格闘技戦だった。
おじさんは、やはりマネージャーで正解だったようだ。
おじさんは、脳への刺激を管理していたようだが、試合のファイトマネーがいい金額だったようで、金に目がくらんで僕を頻繁に試合に出させたようだ。
僕の妻は、それを見かねて何度か抗議に出向いたらしい。
もちろん単に、僕とつながっているロボットの状況を、見に来ただけの方が多かったらしいが。
僕が娘に恋心を抱いた時は、どうなることかと思ったらしい。
目覚めてみると、全ての記憶は蘇った。
僕はこれから、愛する妻、そして愛する娘のために精一杯生きていこう。
おわり
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