種(たね)
退院するとすぐに、私は風の妖精からもらった大事な種を植木鉢に植えた。
深い緑色の植木鉢に、たっぷりの土と水はけを良くする石を混ぜて、陽の当たる窓際においておいた。
私は毎日、その植木鉢に、「おはよう。」や「ただいま。」など声をかけて観察していた。
およそ一週間ほどすると、種から小さな双葉が出て来た。
それがまた嬉しくて、「可愛いね!」や「今日も元気だね!」と言葉をかける。
この子に話しかけると、何故か私も心が軽くなる。それに呼応するように、この子も大きくなって行くようだ。
種が双葉になり、その葉をぐんぐん伸ばし、背が高くなって、やがて蕾が付いた。
私はますます、色んなことを話しかけた。
「今日は大学のゼミで、発表があったよ。すごく緊張した!」
「染谷くんにデートに誘われたよ。」
「デートのあと、電車に乗る前に抱きしめられた……。なんだかちょっと嫌だったよ……。」
そんなことを話すと、ゆっくり花びらが開いていく。
黄色い花びらを開き、ゆっくりと顔をあげる。
私の種は、ミニひまわりだった。
元気になって欲しいと、言っているように見えた。
辛いことがあったら、いつでも私に話しかけてと。
私は、日々の辛いことをそのヒマワリに話した。自分の部屋だから、家族の目も気にせずに泣けることが嬉しかった。
私だけの花の種。
私の感情を肥料にして、育って行く花。
そうか、風の妖精は、きっと私にもこうやって他の人を助けて欲しいんだと、今やっとわかった気がする。
その時が来たら、私には分かるのだろうか。
私の力を必要としてくれる人を。
【ミニひまわりの花言葉】
「愛慕」「あなたを見つめる」
いつか必ず幸せになれる日が来る どさまらすと @Kanesaka_manami
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