京都四条大和通り富嶽町 喫茶店「邂逅」
ズバーP
第1話 呼ばれて飛び出た・・・
☆ご注意 この物語はフィクションです。実在の住所・店舗・人物とは一切関係ありません。
世界に名立たる観光都市も、昨今のコロナ騒ぎのせいで観光客が激減。
大通りになる四条通りすらも出歩く人影さえまばらで、規制下ではもう逢魔が刻の面影さえ感じられるほど閑散としていた。
そんな四条通りから1本裏通りにはいると更に人影は絶えて周囲の建物が古いだけに一種異様な雰囲気になってしまう。
ただ、そのあさぼらけた様な景色の中で唯一。
くすみ汚れた赤レンガで出来た古い作りの建物が逆にレトロモダンな存在感を醸し出している。
その一点で周囲の古いだけのたてものとは違っていた。
いつから建っているのだろうか、その建物の店舗は近所の最年長のおじいちゃんが知る限りではずうっと変わらず喫茶店だったらしい。
店名やオーナーこそ違えど、喫茶店であることは変わらずにいつの間にか気が付けばすでに店があったらしい。
からん ころん!
むかしはどこの喫茶店の入り口扉にもあった、来客を知らせるベルの音でおとないを告げる。
中も落ち着いたシック&レトロとでもいうのだろうかいい雰囲気のお店だ。
ただ、如何せん。
レトロだ何だといっても設備が全体に古い事には違いなく、テーブルが1台少しカタカタしたり。
座るとギシギシいう当たりの椅子が一脚あったりと中々な物だった。
「いらっしゃい。今日は何を?」ここは喫茶店
50代に見える、角刈りがごま塩頭になってはいるがさぞ若い頃はさぞ男前だったんだろうなと思わせるカウンター内の細身白シャツのマスターがひとりで詰めている。
店内はこじんまりとしておりカウンターに5席と並行した窓側に、4席テーブルが2組のみの配置。
ぜんぶ埋まっても13人しか入らない上に、カウンター席の一番外側。
マスターから見て右の端の席がいつ見ても、当日の読みかけで雑にたたんで置かれた新聞紙。
アルミ製の丸い薄い灰皿の中に火が付いたまま放置され立ち消えになったショ-トピース。
マスターご自慢のブレンドコーヒ-のホットとが3種の神器のように無人の席を囲んでいた。
ボクはこの席を密かに「祭壇」と呼んでいた。
マスターとはそこそこ古い知り合いだ。
頭を掻きながらも見た目を気にして手櫛であわててといて、こちらを見たマスターに、
「モーニング!」と告げて700円を見えない客のとなりに置いていつもの定位置(マスターから見てカウンターの左の端)にすわる。
「マスターそこの常連さんいつ見てもいないけど・・きょうも来ているの?」ボクは人見知りでやっと話せるようになった数少ない大人の一人に聞いた。
「あれっ今までいたんだけど・・・」
そんなわけないよね。僕が来たときに限って姿を消しちゃうボクにだけ偶然見えない常連さんなんて・・マスターのウソとまでは言わないけれど、待てよ・・確か似た話を何かの本で読んだ覚えが・・あったはずだ!
あの話は二人の男の友情物で・・たしか、(死んでしまった、親友の為に何時戻って来てもいいように生前の様子のまま私物を残しておくんだったっけ?❩ なんかそんな話。
マスターは興味無さそうな素振りをしながらもボクが友人の席を気にしているのが引っかかるのだろうか、ボクの視線の先をチラチラと確認する。
そして、ちょっとぶっきらぼうにマスターが挑むようにたずねて来た。
「今日のセットのコーヒーは何に?」
ボクを睨むかのように見るマスターに首のタオルで汗をふきふき、いかにも当たり前感を出しながら・・。
「もちろんアイスで、朝からこの暑さじゃホットなんてやだよ!」
と告げると彼はあきらめたように ガックリ して用意し始めた。
「この暑さにコロナ、あと災害も連続すぎるでしょ。地球、やばいんじゃないのかな?」
すねちゃったのか?マスターの返事がない。
よほどボクに自慢のホットブレンドを飲ませたいみたいだった。アイスコーヒ-だって工夫した自慢の味じゃないの?と、思った時。
アルミの灰皿が カ、タ、カタ カタ カタ カタカタ カウンターで揺れていた。
「揺れてる?」ゴゴゴゴゴオッ
「地震!でかいぞ!」
「マスター!火消して!」
飛び込もうにも目の前にはカウンターのスツールしかなかった。
ゴゴゴゴゴオオオオオオッ ドオオオオオッ ォォォォォォォッ
・・・・
「お、おさまった?」
スツールのちいさい座面から頭を出したボクの頭に何か重みのある物が当たった。
ゴッ「うっ!」
「あぁっ
ボクは気絶した。・・らしい。
気が付くと店の四席テーブルの椅子が並べてあって、簡易ベッドになってそこに寝かされていた。ひたいにおしぼりが、あたまに氷嚢がおいてあった。そっと覗き込む影が見えた。
「マスター」
「気が付いたか?」
マスターは半身を起こしてくれて心配そうに顔を覗き込んだ。
「俺、いやボクどうして・・うっ」
まだ痛む頭頂部に手をやるとまだズキズキした。
「あなたーその子大丈夫ー?」
トイレや上の住居へあがる階段のある奥向きの方からいるはずのない若い女性の声がした。
「ああっ気が付いた。あとで武道先生ん所に送ってって見てもらうよ。」
なぜか嬉しそうに返事をするマスター。
「誰です・・あなた?って言ってませんでしたか。」
50代のマスターにあんなに若い声の女性が奥さんって?単にアニメ声の奥さん、それとも通報案件!なんだろうこの胸騒ぎは・・・マスター結婚してたっけ?
「いやぁ何と言っていいか・・・分かりやすく言うと出て行った嫁が帰って来たっていうかな、実はちと違うんだが。
奥向きからカラコロと軽やかな音で出て来てあいさつ代わりに頭を下げた女は下駄に浴衣の夏まつりスタイルだった。
髪は肩をすこし越えた所で切りそろえられていて耳を出し前髪もまゆ下あたりでそろえた様子がなにか変わった感じに見えた。
黒目もハッキリとおおきく、鼻かわいく口も慎まし気な典型的なかわいい系だった。
「あなた、老けたわね?今、平成何年?」少女?がマスターにかけた声の内容に驚いた。
「へ?」ボクは女の人の言った意味が一瞬わからなかった。聞くにしても変な聞き方。
「マスターこの人・・こそ大丈夫なの?」自分の頭の事を棚に上げ彼女の頭を指さす。
「ああっこいつは訳ありだけど、大丈夫なんだ。ちょっとこい。・・あのな・・。」
マスターは女の子を手招きして呼びヒソヒソ話し合っている。先に女の人とはいったがじっくり見てみると肌の張りツヤからやっぱりどうしてもJKぐらいにしかみえない。
「なによ!・・うそ・・平成・・令和・・2020年!~嘘~わたしこの見た目でそんなおばあちゃんになるの?あなたが50でわたしが1個とびだから・・48歳!30年も神隠しにあっていたっていうの?」
都さんは茫然と立ったまま、滂沱の涙を流し続けていた。
「そんなのってないわ~わたしの結婚生活って何だったのよ!」
「・・・・。」
「うわ~ぁ!いやだ~戻してよ~こんなのイヤ~!」
「すまん!俺があんなものをみつけなけりゃ!」
ひとしきりうっぷんをぶつけ合うと落ち着いたようなマスター夫婦はぽつぽつとバラバラに事情を話し始めたものだから、解読するのに骨が折れた。
要約すると、俺の頭に落ちて来た金属製の花瓶(のようなもの)が30年前に奥さんを吸い込み消えた。
で、さっきの地震の時に再び現れて奥さんが戻った。
元々はその問題の花瓶はこの店の二階・住居部分の屋根裏に大層な木箱に隠してあったらしい。
表書きには・・「刻の箱舟(玉手箱)」と記されていたらしい。
「その花瓶はどこに?」
「都を残してどっかへ消えちまった。お前を介抱してるうちに分からなくなったんだ。それより、こんな事ならもっと早く名前叫んでおくんだった。」
「!?」
「地震の時もうダメかもって思って・・ずっと思っていた嫁さんの名前。呼んじゃったんだよ。そしたら・・戻ってきてさ。若い時のまんまの姿で、でも俺知ってるんだよ。」
ここでマスターは声を潜めた。
「あれは本物の都じゃないって知ってるんだ。」
ボクは起き上がりかけた無理な姿勢のまま固まった。マスターの目がちょっとおかしいように見えるのは僕のせいか?薄い狂気をたたえた水面に見えるのはなぜなんだろう。マスターと奥さん本当におかしいのはどっちだろう。
でも、おかしい人はふたりだけなんだろうか?思いっ切り頭を打ったボクもホントはどこかおかしいんじゃないだろうか?
気が付いていないだけで、ボクこそが一番おかしいひとなのかもしれません。
やっぱり、現実世界っていうのはあるようです。翌日の昼には都さんはいなくなっていました。
マスターは店を開けてましたが、目は赤くはれていました。
でも、昨日の狂気の影は無く。
それどころか青空を仰ぎ見たマスターの表情には「神性」さえあったのではないかと感じていたボクなのです。
ここは喫茶店「
ここは誰かに遭いたい人が来る店。
何かを抱えたひとが来る店。
そんな店だと名前から想像していた。
1話A面 了
1話B面 始
ここは喫茶店「
何かを抱えたひとが来る店。
本来「
偶然の出あい。
めぐりあい。
だから、呼んだからといって本人が現れるわけがない。
そんなに優しい因果のからくりの訳がない。
特にこの店の成り立ちやなんかを考えれば、それに嫁の事情を
思えば・・・本人が呼び出された訳がないんだ。
この店は決して優しくない。でも、鬼だ!蛇だ!というわけでもない。
店の意思は因果に従いなすべきことをするだけで特別でもない。ただやはり、齢1000年を越える古都であり積もり積もった様々な物が思いがけずに思念を増幅したりもする。
だから、都に逢いたい。
もう一度この心が枯れるまでにあの当時の嫁にあって、心底から謝りたいとおもったんだ。
「しあわせにしてやれなくてすまない。自分のわがままで巻き込むことになってすまない。・・君は許してはくれないかも知れないが、これだって独りよがりかもしれないが・・それでも謝り続けるしかないんだ。店を続けるしかないんだ。」
これは、嫁の都だけじゃなくおれも店に取り込まれたのかもしれない。
ふとまだ学生の頃ふたりで借りてみた映画「HOUSE ハウス」だったか?を思い出した。(1977)
店をやめたくなったが出来ない相談なのは、分かっていた。
おれはきょうもひとりで目利きをし 焙煎して ブレンドのため五感を働かせ 1/3をアイスの為にミルにかけ残りを真空パックしておく。
店を閉めても仕込みの為、毎日が残業だ。
アイスのドリップは翌早朝からにする。
これから後は軽食の仕込みと発注の確認と経理計算だけだ。
夜には都が迫ってきたりしたが、元が何か分からない物を抱く趣味は無いので今回涙をのんだ。
ものすごく久しぶりにしてみたかった気もあったが元物体Xとか抱けないし。
もっとも泣かれたので少しは楽しんだ。
あさ、裸で床から身体を起こした彼女はなみだを一粒こぼし、「ありがと♡」ちゅっ
とおれのほほにキスすると「じゃあ戻るね!」というなり姿を消した。
そのあと30分ほどおれも泣いた。
そして開店すると待っていたようにヤツがきて500円玉1枚を投げてよこしおれは無言でホットを出していつもの様に
豆の香が鼻をくすぐり、日差しと気温は暑かった。
「こりゃ今日もホットは出ねぇな。」
昨日に比べて今日は平和だった。
1話B面 了
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