弐拾肆


「あ、あぁ、そうだケド。知ってんのか?」


 火花すら見えるのではないかという状況の中、飄々とした調子で訊いてくる蓮に、俺は思わず手刀をきりたい気分だった。


「うん。この辺では有名だからね。あきくん達は引っ越してきたから知らないだろうけど……この近辺では昔から憑き物とかそういう話が多かったんだ。それこそこの大学のある場所だって、数年前迄は、神隠しに合うとか、狸に化かされるとかって話が山ほどあったくらいだから」


 蓮は、表情一つ変えず、まるで文献を丸暗記しているかのようにすらすらと語り始めた。


「それで、そう言う時に駆け込むのがあの神社なんだ。まぁ、今となっては現実味のあまりない話なんだけど……そう言うのを抜きにしても、若宮神社はこの土地の名士で、まだここが区画整理される前、村だった頃には、役場よりも力があって、葬祭事の全てを取り仕切ってたって言う話だよ」


 流れるような滑らかな言葉の羅列に聞き入ってしまう。

 敷地面積から見て、若宮神社はそれなりに権力のあった由緒正しいところなのだろうくらいには思っていたが、そこまで凄いとは思いもよらなかった。


「お前、よく知ってんなー」


 蓮の講釈に、俺は涼子といがみ合っていたことなどすっかり忘れて、純粋に感嘆の声を上げた。


「いや、本当に有名なんだよ。僕の知り合いにもお祓いしてもらった人とか、毎日お参りに行ってる人とかもいるし。ねぇ、陽平くん?」


「あ、あぁ。俺はそこまで詳しくは知らねぇけど、確かに若宮神社っつーのは、有名だな」


 突然話を振られた陽平は、皆の視線に晒され戸惑いつつ答える。


「じいちゃんがよくお参りに行ってたのを覚えてるよ。あそこは霊験あらたかな場所だからきちんとお参りしないとイカン!とか言ってな」


「うん、だからねあきくん。僕はあそこに行ったんなら、悪いことではないと思うよ」


「そうだな、確かにお祓いってっつーのは胡散臭く感じちまうけど、年寄りの言うことは聞けって言うしな。美衣子の気分が良くなったっつーんなら、良かったのかもな」


 蓮が先頭をきるようにそう言って、陽平もそれに同意する。

 地元人二人が後押ししてくれたことで、俺は俄然心強くなった。

 そして、突然旗色が変わった涼子はと言うと、そう簡単には折れないとばかりに、三人に増えた敵陣を交互に睨みつけていた。

 俺は参ったとばかりにそれに苦笑し、陽平はそれを受け流す。

 蓮だけは、真っ向から視線を受け止めていた。

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