弐拾参

「だからさ、気休めでも美衣子の気分が良くなるならいいかなって思ったんだ。それに、思い切って話してくれたあいつに、まずは病院に行け!とは言えないだろ?」


「ま、まぁ、そうだよな……」


 相談してきた友人に、「病んでるんじゃねーの?」とは言えなかった俺の想いを察してくれたのだろう、陽平は苦笑を浮かべて、言葉を濁した。


「でもな、実際行ってみたら、そこのお祓いは信用出来そうだったんだよ……あ、別に洗脳されたとか宗教にはまったとかじゃねぇから勘違いすんなよ!?ただ、何もしないで状況を見るよりは、行って良かったっつーか……」


 言いかけて、俺は慌てて言い繕った。

 皆の表情が一瞬して、「こいつもヤバイんじゃねーか?」と言うようなものになっていた。


「なぁ、その神社の奴がさ、今回の事を仕組んだってことはねぇのか?金取るためにさ」


 案の定、俺の言葉が途切れた隙を突くように、涼子が訊いて来る。

 美衣子が居なくなったこともあり、涼子の俺に対する視線や口調は、容赦が無くなりつつあった。


「いや、それは無い。そもそも金は一円も払ってないんだ。個人には無償でやってくれるらしい」


 即座に否定はしてみたものの、説得力は無い。

 それに、確かに支払ってはいないが、賽銭は入れているので、一円も払っていないと言うのは多少だが嘘でもある。


「だったら、こっから先ふんだくられるかもしれねぇだろ?」


「ま、まぁ……いや、本当に大丈夫だって」


 重ね重ね問われ、用意していた俺のボキャブラリーは直ぐに底をついていた。

 今や、言い募れば募る程、逆に立場が悪くなるばかりだった。

 涼子は、この件に関してはやたらと怒りを露わにしていた。

 美衣子を心配しているからこそなのかもしれないが、いつになくその目つきや口調が刺々しい。

 俺の一言一句全てに対して、噛み付こうとする勢いだった。

 確かに、今まで幽霊だの怪異だのに無縁な人間からすれば、俺の話は馬鹿らしいと思われるのも仕方が無いというのは理解できる。

 けれど、それにしたって涼子の全身から発散される嫌悪感は一際激しかった。何か別の理由があるのかもしれないと、勘繰ってしまう程だ。

 いつまでも防戦一方のまま、涼子とやりあっていると、思わぬところから助け舟が出された。


「ねぇ、あきくん?さっきから言ってる神社って、若宮神社の事かい?」


 今までひたすら傍観に徹していた蓮が、涼子に睨まれるのも気にせず、割り込むように訊いてきた。

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