拾伍
確かにイナリの言う通り、尊さんも今此方に向かっているはずだった。
尊さんのいる若宮神社からこのマンションまでは原付をとばしても十五分はかかる。歩くとなれば三十分は必要だろう。
だとすると、彼女は何で来るのだろうか?
今日は休日、スクールバスは走っていないし、普通のバスもこの時間本数は極端に少ないはずだ。
そうなると、自転車とか原付とかそういったもので来るか、または神主さんに送ってもらうとか……
とにかく、どう見積もっても彼女が到着するまで後十分はかかる。
だからと言って、俺が突入したから何が出来るというわけでもないが、美衣子を少しでも安心させてやるくらいは出来るだろう。
一歩、一歩――――――随分長い時間をかけて廊下を進む。
やっとのことで辿り着いた角部屋、美衣子の部屋の扉は、静まり返っていた。
ゆっくりとした所作でドアノブに手をかける。いつの間にか掌にじっとりと汗をかいていて、ぬるりと滑った。
此処にも各宅毎にインターホンが設置されているが、鳴らしてもきっと何の反応もないだろうことは予想出来た。ドアが開いていなければ、合鍵が隠してある場所を探ってみるしかない。
カチャッ
恐る恐る回したドアノブは、何のわだかまりも感じさせずすんなりと動いた。
キィ…………キキィッ、ガタッ!
「うわっ!?」
一切の重みや手応えを感じさせなかったドアノブは、些細な力で動いたかと思えば、堰が決壊したかのように、突然目の前に迫ってきた。
危うくぶつかりそうになったところで、一歩退がり、難を逃れる。
ガタッ、タン!
中にあった物が、その反動で零れ出てくる。
ピタッ……ピタッ……
中から溢れ出てきたモノは、扉が開いたのをきっかけに、そのまま表へ出て来ようとするかのように動き出した。
ピタッ……ピタッ……ズッ
それは“手”だった。
俺が退いたことで、一瞬閉じかけた扉を押し退けるように、“手”は廊下へと這い出してくる。
ピタッ、ズッ、ピタッ、ズッ…………
もう一度閉じ込められることを許さないとばかりに、“手”は足元へと近付いて来る。
“手”は、外気に触れた事で、水を得た魚のように動きを速め、指先をくねくねと動かして、地面を探る。
俺は、突然現れた衝撃的な物体に、視線を外せなくなっていた。
ピタッ、ズズッ、ピタッ、ズズッ、ズッ……
“手”は、近付いて来る毎に音を重くし、その先にあるであろう部分を先導するように引きづってくる。
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