拾壱
『なぁ、明日は大学行ってからべっぴんさんとこ行くんか?』
重い足を引き摺って一歩一歩着実に階段を上っていれば、イナリが思い出したように話し掛けてきた。
「あぁ、そうなるな。そう言えば尊さんいるかな?一応メールしとくか」
何気に連絡先を交換したものの、色々あって連絡していなかった。
神社に行けば会えるものだと勝手に決め付けていたが、彼女も学生だし、会いに行くなら一報入れておいたほうがいいかもしれない。
そう思い立ち、ポケットに突っ込んであった携帯を取り出す。
すると――――――
ブルルルルブルルルル……
まるで見計らったかのように携帯が震え始めた。
「うぉ!!」
突然の事に、危うく携帯を取り落としそうになりつつ、なんとか堪えてディスプレイを見る。
“着信 有村美衣子”
美衣子からだった。
しかもメールではなく、電話。
とりあえず切れる前に出なくてはと、通話ボタンを押しかけ・・・・・・なんとなく嫌な予感がした。
背中に電気がはしるようなそんな感覚。
「もしもし?」
「…………」
問い掛けてみるが返事はない。
漠然としていた嫌な予感が段々と形を成し始める。
通話口の向こうからは息を潜めているような空気が伝わってくる。
間違い電話ということではないようだ。
「おいっ!美衣子!?もしもしっ!?」
応答してくれという願いを込め、もう一度問い掛ける。
「……ひっ…………ぐすっ……」
すると僅かに聞こえていた息遣いが段々と鼻を啜るような音へと変わり始めた。
「おいっ!どうしたんだよ!?」
自宅の扉の前で足を止め、ただならぬ声をあげる俺の様子に、イナリも俺の耳元に近づけられた電話へ顔を寄せてきた。
「……ぐっ、ひっ……あっ……あっきぃ……」
美衣子は必死で言葉を絞り出すも、声にならない。
とにかく、美衣子の身に何かが起きたのは間違いないようだった。
「おいっ!?どうしたんだ!?」
「……グスッ……」
「な、なんかあったんだな!?今から行くからっ!!」
電話の向こうからは相も変わらず嗚咽ばかりが漏れてくる。
この状態で放っておくわけにもいかず、俺は上って来た階段を今度は駆け足で一気に下りる。
「美衣子っ、大丈夫だからっ!もう大丈夫だからしっかりしろっ!!」
とにかく混乱状態を解いてやらなくてはと思うのだが、俺も相当テンパっていてろくな言葉が出てこない。
プツッ!……ツーツー
俺が再び原付に跨がったところで突然通話が切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます