拾弐
「チッ」
小さく舌打ちを溢しつつも、原付を発進させ、再度美衣子に電話をかける。
しかし、繋がる事はなく、話し中の機械的な音が続いている。
美衣子もかけ直してきてるのか?
それとも俺に見切りをつけて他の奴に電話してるのか?
俺は原付を運転しつつ、何度もコールを繰り返す。
俺の家から美衣子の家迄は、原付をとばせば20分程度なのだが、大通りを三本突っ切らなくてはいけない。
ただでさえ電話しながらという不安定な体勢なので、渋滞していないことを祈る。
『暁っ!べっぴんさんや!!尊はんに連絡しぃ!!』
舌打ちを繰り返しながら何度も電話をかけ直す俺の膝の上で、周囲の音に掻き消されないようにイナリが声を張上げる。
イナリは、遅れる事なく、黙ってしっかりと付いて来ていた。
きっと俺の尋常でない様子に、早々に異変を察知したのだろう。
「!?……わかった!」
俺もイナリに負けないように大声で返す。
早速リダイヤル中の電話を切り、最近登録したばかりのアドレスを呼び出した。
プルルルルプルルルル…………プッ
「もしもし?……拓真さん?」
久しくすら感じる呼び出し音の後、尊さんは六回目のコールが鳴り終わるのを見計らうように通話口に出た。
突然かかってきたことに少し驚いているようだが、そのあどけない声が今は物凄く安心させられる。
「もしもし?繋がって良かった。実は美衣子の様子が変なんだっ!!」
無事通話出来た事にほっとしつつも、名乗る事すら忘れて、矢継ぎ早にまくしたてる。
「……そうですか。解りました。私も直ぐに向かいます。有村さんのご自宅の場所を教えて下さい」
尊さんは、慌て吐いた俺のSOSをしっかり受信すると、的確に必要な情報を問う。
促されるまま俺は質問に答えて、通話はあっさりと終えられる。
焦りで上手く言葉が出ない俺に対してのあの対応―――もしかすると尊さんは既に電話がかかってきた時点である程度予想がついていたのかもしれない。
「よしっ!」
尊さんの落ち着いた声を聞いたお陰で少し冷静さを取り戻した俺は、気合いを入れ直す。
ポケットに携帯を仕舞い、片手間になっていた運転に集中してスピードを速める。
今更だが、このまま電話していても美衣子には絶対繋がらないような気がする。そこには俺には到底理解出来ないような不思議な力がかかってるに違いない。
とにかく今は逸早く美衣子の元に駆け付けるしか俺に手は残されていないのだ。
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