弐拾参
改めてとばかりにされた質問に俺が答えると、尊さんは神妙な顔で考え込むように黙り込んでしまった。
質問するのも憚られ黙っていると……
『なるほどな……尊よく気づいたな』
天空猫神がそう呟いた。
『おい、小僧。お前が視えるようになったのはいつからだ?』
天空猫神は地陸猫神のように名前を呼んではくれなかった。
「はっきりとは覚えてないけど……もしも社を壊した時がきっかけだって言うなら、小学生ん時だから……6歳とか7歳とか、そんぐらいかな」
俺の家は母親も過保護気味だから、親父と二人だけで遠出していいってことになったのは小学生にあがってからだし、怖い話が苦手だったくらいだから低学年だろう。
『今から何年前じゃ?』
「13年前とかだな」
『では稲荷神、社がなくなったのは何年前だ?』
『…………5年前や』
事情聴取でもするような天空猫神の問いかけに、狐がぼそりと答える。
一通り聞き終えたのか、天空猫神はうんうんと頷く。そして、黙り込んだままの尊さんに視線をやった。
地陸猫神は興味を失ったかのようにポケーとした顔で宙を浮いている。
「あー、一体どういうことなんだよ?」
痺れをきらして俺は問うた。
天空猫神は、まぁ待てとばかりに黒い肉球の付いた掌を見せて静止を示すと、主である尊さんに説明権を譲った。
「ちょっと不思議だったんです……」
尊さんは十二分に間を取り、考えをまとめながら、ゆっくりと話し始める。
「拓真さんは、稲荷大明神様のお姿を視たことがない、その上憑かれていることにすら気づかなかったと仰いました。それは拓真さんと稲荷大明神様が同化してしまっているためだと思い、私はそう説明させていただきました」
確かにそう説明された。そして、その見解は間違っていなかったのだろう。だからこそ、尊さんの力を流し込んでもらったことで波長がズレ、俺は狐を視ることが出来るようになった。
「でもそれなら、どうして初めから気づかなかったのだろう?って思ったんです。稲荷大明神様が拓真さんに与えた神罰は視る力だったわけですから、憑いた時点で拓真さんに気づかれていてもおかしくなかったはずです。なのに、拓真さんは十年以上もの間、同化してしまう程の長い時間、稲荷大明神様の存在に気づかなかった……」
尊さんの言葉が一旦途切れた。
すかさず、猫神が尊さんの言葉を継ぎ、空白を埋める。
『我らと同じくらい力のある神なら、いかに霊力のある人間からも姿を隠すことは出来る』
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