彼の遺したもの

統一暦499年11月1日午後7時30分

 直前で中止となったリナのハロウィンライブでネット上には多くの不満の声が溢れた。理由についてまともに説明がないことも追い打ちをかけ、リナは大炎上している。

 一方、当事者のリナは思考回路に異常が生じてしまったらしい。ずっと苑仁の部屋に閉じこもっていて、修理をしようとしても一切受け付けずに部屋のドアを固く締めたままだ。

 苑仁の死因は完全に伏せられた状態で親族に伝えられた。彼は多くの事業を抱えた途中で死んでしまったので、葬儀だけでなく彼の事業の引継ぎ等、関係者は大忙しだろう。

 紅音は良く知っていた人物の死をまだ受け入れられないでいる。悲しいとかよりも、信じられない、実感が湧かないという感じでいつになく落ち込む聡兎に対する戸惑いのほうが大きいようだ。

 一人の人間の死を含む一連の事件が終わり、恵吏は次に何をすべきか悩んでいた。

「そもそも苑仁さんは神の器じゃなかった。それじゃあどうすれば……。」

 アカリは言う。

「この事件は水面に落ちた大きな石のようなものです。やがてこれは別の何かを派生させるでしょう。これからは向こうから事件が寄ってくる、そういうフェーズなのかもしれないですね。」

 恵吏はアカリの言葉に若干の恐怖を覚えつつ、別のことを考えていた。何か忘れているような……。


統一暦499年11月1日午後9時

 朝倉輝はコーヒーを飲みながらデータの整理をしていた。

「やはり天皇は器ではなかったか。しかしこいつは大きな収穫だな。」

 輝の机の横には大きな段ボール箱があった。その中に入っていたのは、半覚醒状態の八咫鏡。

「出力が聖母にすら及ばないのは信仰の不足によるものだろうか。まあ八百万に分散している点で一神教には敵わないだろうことは分かっていたが。」

 輝は次の実験の計画を確認する。

「偶像崇拝による強力な信仰。人が作った人でないものArtificial Intelligence。さて、どう失敗してくれるか見ものだな。」

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