八咫鏡

統一暦499年10月29日午後6時30分

 個人情報保護法に抵触するというのでACARIは苑仁うつひとのスケジュールを公開してくれなかった。そういうことで恵吏たちは苑仁の動向を見張っていた。といっても恵吏と紅音は学校があるのでほとんどニートのような生活をしている聡兎に灯の世話も含めて任せきりだったのだが。

 帰ってきた紅音は聡兎に聞く。

「聡兎さん、なんか動きはあった?」

 安いラーメンを啜りながら聡兎が言う。

「特に動きはなし。立派な服着てる客が苑仁御所に出入りしてるのは見かけるが、肝心の抗鬱薬くん自身は一向に出てこない。ニートかよ。」

「聡兎さんだって人のこと言えないでしょ?女の子の部屋に居候って時点でウツくんよりずっと悪質だよ。」

「悪質とはなんだ悪質とは……あ、苑仁が出てきた!」

 ちょうど苑仁が出てきたのだった。苑仁御所から出てくるなり苑仁は高級車に乗っていた。

「どこかに出かけるみたいだぞ?追いかけてくる!」


統一暦499年10月29日午後6時40分

 聡兎は自作のバイクを飛ばしていた。追いかけているのは苑仁の乗っている高級車。

 苑仁に見つからないために聡兎が選んだのが、「飛ぶ」だった。読んで字のごとく、聡兎は空を飛んでいた。ジェット機のような翼を広げて飛んでいるところはむしろすぐに見つかりそうなものだが、全身ホログラムの応用で人間の目では見えなくしている。

 苑仁の車は高速道路に乗り、西へ行く。


統一暦499年10月29日午後9時50分

 苑仁がやってきたのは伊勢神宮だった。車を降りた苑仁はそのまま神宮の奥へ進んでいく。

 聡兎はバイクから降りて苑仁の後をついて行く。ホログラムを投影しているおかげで苑仁は気づいていない。


統一暦499年10月29日午後10時20分

「夜分遅くに申し訳ありません。」

 苑仁は貫禄のある神職と話をしていた。「八咫鏡」を「移動」するとか言っている。

「三種の神器を狙う逆賊が居るらしいんです。」

「安全な場所へ移動するので」

「それでは31日に。」

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