第9話 いてくれる幸せ


次の朝、リアが言っていたように良子は目を覚ました。


「ここは...」


「病院だよ。本当に良かった...目が覚めたんだね。もう君と話す事は出来ないと思った。本当に良かった...」

達夫の目からは涙がこぼれた。


「私は確か車にひかれたはずよね?助かったんだ...」


「そう、助かったんだよ。」

そう言うと達夫は両手で良子の手を握りしめた。


「轢かれた割にはどこも痛くないな。」


良子は包帯が巻かれた頭と胸を触ってみたが、傷口らしきものはなかった。


「あれ?どう言う事かしら?」


「日頃の行いがいいから神様が治してくれたんじゃないの?」

達夫は涙をぬぐいながら答えた。


そう話しているうちにソファーで寝ていた良子の両親が目を覚ました。


「良子... 良かった、目が覚めてくれて」


「お母さん、おかしいのよ。私事故にあったのに傷がないの。痛かった記憶はあるのに」


「まずは看護婦さん呼ばなきゃ!!」


看護師も傷口が綺麗になくなっていることにビックリして、その後一時は大騒ぎになり詳細な検査を医師達は求めたが、そこは達夫がうまくなだめて脳波に異常がなければ数日中に退院という運びになった。


「不思議な事もあるもんだねぇ。一時はもうダメかと思ったのに。」

と良子の母は首を傾げながら言った。


「治ったのですから、それでいいんじゃないですか?」


達夫は急に治った件ついて、あまり詮索されないようにひたすら話をそらすように心がけた。


良子の両親はくたびれた様子であったのと、着替えが必要だったので達夫は両親に頼んで帰ってもらった。



「何か欲しいものはない?買ってくるけど...『埋め合わせ』はさせてもらいます!!」


「うーん、さっきも言ったけど、どこも痛くないし、いたって普通だから難しい質問だなぁ」


「あ、クリスマス用の飾りが買えなかったから、買っておいてもらえる? 明日もお仕事でしょ? ずっといてくれたんだよね? 達夫も帰っていいよ。明日に備えておいて。」


達夫は少し考えてから「わかった」と言って、良子に近づき良子に長いキスをした。


「本当によかった。じゃーまた明日くるよ。」


「うん。くれぐれもにはあわないでね。」


くすっと笑い、良子は笑顔で達夫を見送った。



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達夫は帰り道、駅のデパートでクリスマス用の飾りを購入した。


下へ向かうエスカレーターに乗っていると宝飾品売り場が目に入った。


達夫の胸が「ドキン」とした。


達夫は今、良子のために婚約指輪を買うべきでないかと思った。


今まで5年付き合ってきて、いつもそばにいてくれると思い込んでいたけれど、昨日の事故でどんなに自分が良子のことを大事に思っているのかを改めて思い知らされた。


「あの魔女のばあさんもリアも、という言葉を使って俺に結婚についてのインスピレーションを与えてくれた。今、良子にプロポーズすることは『』なのかもしれない」と達夫は思った。


足はおのずと宝飾品売り場へと向かう。


「いらっしゃいませ、クリスマスプレゼント用ですか?」


「いや、婚約指輪を買いたいんですけど、どうしたらいいかわからないんですけど...」


「それではこちらへ.......」


達夫は顔を赤らめ一時間近く奮闘し、ようやく指輪を購入した。



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