ファントム・カスケーダー~緊迫感あふれる非日常的事件!靴が散り散りになる現場で、犯人が逃走。

水原麻以

第1話 おおらかな愛

履きそろえた靴が集合離散しながら裏路地に落ちていく。ゆっくりと、急がば回り、くるくると、抜きつ抜かれつ、上になり、下になり、やがて右靴がステンレスにぶつかった。そこに紺色のプリーツスカートが重なり、肩まで伸びた黒髪が覆いかぶさり、大脳が流れ出た。

おおい、おおい、だれか、たいへんだあ、きゅうきゅうしゃ。

まのびしたコンクリートジャングルの、のんびりとしたひだまり。

せわしなく、ただゆっくりと、変化に乏しいルーティーンを、ササクレタ乙女ゴコロがうがった!

形骸化した日常になだれ込む非日常の暴力。それも斜めうえでなく、垂直から奇襲された。「おうい! そこの君」

ぐったりとわだかまる、もう女の子とは言えないミンチの池。ほとりにたたずむ同級生らしき少女は脱兎のごとくかけだした。

「おうい! だれか! 捕まえてくれ」

左右にはだけたジャケットが、ストライプのネクタイが、アイロンの効いてないズボンが、998ヘクトパスカルの初秋を泳いでいる。

ゆっくりと。だが、少女はキンキンキンキン――と、非常階段を鳴らして屋上まで駆け上がった。そこで、形而上に身をなげる。

「あっ!」

第一発見者の男は中天をよぎる漆黒に目を奪われる。かぁっと表面温度6000度の直射に網膜を焼かれ、犯人と自分を見失う。


気づいた時、男はアスファルトにねじ伏せられ、手錠をかけられていた。

「なにしやがる」


その時、男の顔の目に、


「なにも、していない、ぞ」


真っ黒な穴が開き、男はつぶされていた。


「うおぁああ!!」


男の顔に、大量のガラスと紙の塊が突き刺さったのを見て、犯人は悲鳴を上げた。

「俺だって、悪かったっすよ!!」


そのあとは、犯人の絶叫だった。


「いやいや、あの男は……え? マジすか!?」


「いや、だからな。本当だぜ」


男に手錠をかけるや、犯人は逃走をはじめた。






「もう、逃げらんないっす!」


犯人と少女は大空を飛び、屋上を離れた。

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