36歳会社員はいつの間にか異世界にいた。

BoshiBosh

第1話 プロローグ

私の名前は東城誠之助とうじょうせいのすけ

36歳。世に誕生し、今に至るまで彼女無し。

どこにでもいる至って普通の会社員。

仕事を終わらせ、都会の極狭ごくせまワンルームマンションに帰宅し、いつものようにテレビをつける。


「はぁ...退屈だなぁ...毎日同じことの繰り返しさ。せめて面白いゲームでも出てくれば、しばらくは退屈しないのに...最近は出ても似たり寄ったりですぐ飽きるし、映像が綺麗だけの使い回しゲームが多すぎるんだよな!」


テレビコマーシャルに不満を漏らしながらパソコンの電源を付け、ゲーム情報を集める。


最新鋭さいしんえいのグラフィックボードは光沢面にリアルタイムに周りの風景を忠実に映し出せるようになっただと!?水滴一個一個に周りの風景が映るようになってそーんなに楽しいかっ!?ああ??だからどうしたって言うんだ!!ゲームの面白さと一体何の関係があるんだっ!!グラフィック映像の綺麗さはもう十分だから目新しいゲームを作れって言ってんの!!」


今度はネットサーフィンで入手したゲーム情報に不満が爆発する。

高校卒業後すぐに一人暮らしを初めたが、独り言が極端に増えた。


「......いや、最新鋭は有用かもしれない...どうカメラアングルを変えようが見えなかったヒラヒラしたあの子の中を...都合の良い水たまりの上に立たせ...水面を見れば!...グフフ...これはいける!!ほしい!」


36歳童貞の変態指数IQ無限大である!


「 待て、高すぎるだろ。1ヶ月分の給料余裕で足りない」


高校を卒業して入った会社で懸命に働き、18年経ったが毎年の昇給額は1500円程度で未だに大卒の初任給に到達していない。


「やっぱり20代の時に転職すればよかったか...」


あの時転職していたら、と、思うこともあったが後悔しても仕方がないか。

そんなことより明日からの2連休をどう過ごすか考える。


「そうだ、気分転換に久々に登山するか」


学生時代山岳部だった私は部員たちと良く山を登りに行ったりしていた。

社会人になってからもたまに山に行ってキャンプしたり、登山したりしている。

一人ぼっちだけど。


「明日は早い…準備済まして寝るか」


────────────────────


タイマーを何重にも設定しどうにか起きれた私は、登山リュックを背負い、今、都会から電車で3時間くらい離れた山にいる。


「ここの山も久々だな。青春時代を思い出す。天候も登山日和だな」


気持ちばかりの準備運動を済ませ、

ざっと登山地図を確認し、

登山リュックから5年くらい前にかっこいいから買った刃渡り300mm狩猟用剣鉈けんなたを出して腰に装着した。

特に使う予定は無いが、

かっこいいからぶら下げているのだ。


小休憩を取りながら、近くの小枝を意味もなく剣鉈で切りつつ満足しては山道を歩くこと2時間。

登山中の景色に興味はない。

登って降りるだけ。それが登山だ。


「久々はキツイな...はぁ...はぁ...トレッキングポール持ってくればよかった...はぁ...はぁ...また休憩しよう」


適当な大きさの岩に腰を掛けて、

何気に靴を脱いで足の具合を見る。


「両足共靴擦くつずれがひどいな。運動不足で足も太ったか?まぁ特に最近はまともに運動してないしな」


下山まで大丈夫だろうと思い、歩みを進める。


登り始めて3時間。

山道が徐々に狭くなり、人とすれ違うのがやっとの道幅で、進行方向に対して左側は木々がまばらに生えていて、傾斜が急な崖になっている。落差100m以上はあるな。

転落すれば底まで止まらずに転び落ちるだろう。


「昔もこんなにビビリながらここの道を歩いてたっけ?」


学生時代はよく仲間と騒ぎながら行き来した狭い山道。

下山するときなんかはよく駆け足で降りて恐怖心なんて感じなかったが、歳を取ったな。


自問自答しながら歩いていると、不意に踏み出した左足がどこまでも沈む感覚がした。


「っうぁあ!?」


くるぶしまですっぽり入るほどの窪みくぼみに気が付かなかった。

バランスを崩し、身体が崖の方にかたむく。


「やべっ!!」


とっさに身をかがめて地面にしがみつこうとしたが、バランスを崩した勢いもあり、うまく行かず前のめりになり、崖側に上半身が乗り出してしまった。


「あ゛ぁ゛〜〜っ!助けて〜っ!」


辛うじて山道に残った下半身で地面を引っ掛け、急勾配な崖に生えてる木の根を両手で掴み、必死に叫ぶ。

登山リュックを両手を支えるには重すぎて、体勢を戻せる気がしない。


「これ...まじで死ぬやつ...」


登山開始してから誰ともすれ違わず、後に続く登山者の気配もなかったこと思い出し、すぐに誰かが助けてくれる可能性はゼロに等しい。

自分の死をさとる。


「......いやだぁ〜っ!!死にたくないっ!!まだしたことないのにっ!!」


総重量20kg以上ある登山リュックを背負い、なおかつ上半身から落ちかかってる状態で体勢を戻せる訳がなく、じりじりと、崖の方へ身体が持っていかれる。

激しい動悸どうき発汗はっかん、手足が震え、呼吸が苦しくなるパニック障害を起こした。


「お゛ぅっ、う゛おぇ゛っ!あ゛っ!......っがぁっ!」


焦り、死の恐怖から嘔吐おうとしてしまった。と同時に両手の力が抜けて、嘔吐物をき散らかしながら、崖を転げ落ちる。


「っがっ!...あ゛あ゛っ!...ぐぉえ゛っ!...ぶっぼっ!あ゛〜〜〜っごっ!...んっごぇ゛っ!.....................」


次々と木の根や岩肌に体を打ちながら100m以上転げ落ち、勾配がゆるやかになり始めた所で岩に後頭部を強打し、意識を失った。




────────────────────

読んでいただき、

ありがとうございます!!


趣味で執筆活動を最近初めましたが、作中のご指摘、矛盾点などございましたら、お手数でなければご教授いただけると幸いです。


また、話の展開が遅めかもしれませんが、何卒、お付き合いしていただけるとうれしいです。

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