俺の体操服を盗んだのは学年1の美少女でしたってマジで言ってんの?

ごま塩アザラシ

第1話 70億分の1

この世界では70億もの人々がいる。

そりゃそんだけいればたくさんの人がいる。

匂いフェチだってたくさんいるだろうさ。

誉められた事ではないが泥棒だって数多く存在する。


そして今日、俺の体操服が盗まれた。

現場は教室。

PM3:00の時点では机の横にかかっていた。

そして俺が教室を出て、帰ってきた今はPM4:17。

つまり犯行は1時間と少しの間に行われた。

今この教室には誰もいない。

俺はとりあえず先生に言いに行こうとしたその時だった。


『ガタンッ』


慌てて振り返る。

音が鳴ったのは掃除用具箱だ。

まさかとは思いつつ、おそるおそる扉を開ける。


そこにいたのは学年1の美少女との呼び声高い、鷺沼愛梨だった。

そして彼女は俺の体操服を思いきり鼻に押し当てていたんだ。


彼女と目線が合う。

鷺沼愛梨。

うちの高校の中で最も可愛いとの呼び声高く、品行方正、誰にでも優しく、文武両道。

完璧な存在、神に選ばれたと言っても過言ではない。

クセのない黒髪は腰辺りまで伸びており、パッチリとした目に小ぶりな唇、左目の下の泣きぼくろが更に魅力を引き立てる。

告白された回数は3桁にも及ぶと言われる張本人。

そんな彼女が鼻を押し付け、エサに飢え、死に物狂いでエサを探す犬の如く俺の体操服の匂いを嗅いでいる。

頬はほんのり赤く染まり、恍惚の表情を浮かべ、今まさしくトランス状態にある。


ちなみに俺は山川拓也。

別に何か取り柄があるわけでも無い。

陽キャでも陰キャでもない。

どのクラスにもいる一般人でしかない。

なんで俺のを?と思わないこともないが、それ以上に気持ち悪さが勝った。


そして俺はそっと掃除用具箱の扉を閉め帰路についた。

俺は何も見ていない。

記憶よ消えろ……。

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