第3話 フォルムがとても独特な

 はじめに教わったのは、対ぺしょぺしょ用の武器の使い方だ。


 コンバットナイフ——の刃をコッペパンにぶっ刺したようなフォルムのパンコッペナイフ。

 ハンドガン——の銃口をコッペパンにぐりぐりと入れたようなフォルムのコッペガン。

 RPGルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタミョート―7——の弾頭をコッペパンに取り換えたようなフォルムのRPC良薬パンコッペ―7。


 どれもこれも出来の悪いおもちゃのように見えるが、実性能は確かなものだった。野外での戦闘を前提に置いているため、すべてのコッペパン部分には防水加工が施されている。これにより雨に濡れてもコッペパンの吸水力&ウィルス除去力を損なうことがない。ただこのままだと効果を発揮できないので、直前に先端をちぎって使う。


 パンコッペナイフは取り扱いが簡単だが、ぺしょぺしょに近付かないと使えないので覚悟がいる。

 コッペガンは離れた場所から使用可能だが、飛んでいくのがコッペパンのため空気抵抗が大きく、届く距離はせいぜい5メートル。照準もぶれやすいので正確に当てるためには2メートルまで近づく必要がある。

 RPC―7はホーミング機能があるのでかなり離れた場所から撃てるが、到達までに時間が掛かるため雨に濡れてコッペパンの威力(治癒力)が失われる。


 距離を取れば正確性と威力が失われ、近付けば危険度が増す。


 彼方あちらを立てれば此方こちらが立たずと言うわけだ。しかし一度ぺしょぺしょになった俺の体は抗体を獲得していて、少し触られた程度では問題ないし雨に濡れても平気なのだそうだ。


 数回の模擬戦を行ったあと、実戦へと繰り出した。


 アマトの立てる作戦は極めて保守的なものだ。少数の群れで移動するぺしょぺしょを見つけたら、広く高い屋根がある場所に移動し、距離を保ちつつ、3もんのRPC―7からコッペパンを撃ち込む。


 ——パシュッ。


 今回のターゲットは5人の集団だ。それぞれの弾頭が当たる。


 ——ぺしょ。


 水分を奪われたぺしょぺしょは倒れるか、逃げるか、向かってくるかに分かれる。5人のうち3人にヒットし、他2人は逃げだした。これを追ってはいけない。雨の中で対等に戦えるのは俺くらいのもので、他の戦闘員は付いて来られない。ぺしょぺしょがこちらに向かってくるようならば応戦と言うのが望ましい。今回は、廃屋と化したガソリンスタンドから撃ち込んだ次第だ。


 うち一人は逃げ、また一人はくずおれた。ここでむやみに倒れたぺしょぺしょに追撃のコッペパンを食らわせに行ったら、残ったもう一人のぺしょぺしょにやられてしまう。

 そいつは案の定こちらに向かってきた。

 俺のうしろに控えたコッペガン部隊がコッペパンを発射。放物線を描いて迫るが、ひらりとかわされてしまう。


 一対一。俺はパンコッペナイフを構えた。


 ぺしょぺしょは武術のたぐいを使わない。つまり、愚直にナイフで迫ってもディスアームされる心配はない。手を伸ばしてきても顔面への強襲ではない限り、臆せず突くことが定石。間合いの都合上こちらの攻撃が先に当たるということ、またぺしょぺしょに触れられても俺はぺしょぺしょにならないことがその理由に当たる。


 想定通り切っ先が当たったぺしょぺしょはその場に倒れた。

 同時に、他の戦闘員が先ほど倒れたぺしょぺしょのもとへ向かい、追撃のコッペパンを食らわせた。


 こうして本日は2人を捕獲し、“焼き立て屋”へ連れて行くことが出来た。彼らも治療を受け、近いうちに正気を取り戻すことになるだろう。



 ※  ※  ※  ※



「リトワ。君が前線に立ってくれるおかげで、とても助かっているよ。ありがとう」


 前線に立って戦える者が居ない状態だと、前回のようにコッペガンが不発に終わった場合、退却する他なかったようだ。パンコッペナイフでの応戦は、本当に追い詰められたときにのみで、打って出るためには使わない。


「お役に立てて光栄です」


 助けてくれた“焼き立て屋”に貢献出来ると言うのは喜ばしいことだ。一方気掛かりなのは、まだ良菜に出会えていないと言うこと。このままの戦い方で、彼女に辿り着けるのだろうか。


「アマト」

「なんだい?」

「やっぱりその、新しく前線で戦える人間を募るって言うのは……?」


 アマトは首を横に振る。

 ダメか。前にも提案はしていた。前衛は多い方がいい。だから抗体を持っている患者たちから、戦いたい者を募ったらどうかと。


「前にも言ったけど、ここに居るみんなはあくまでも患者なんだ。抗体がしっかり働くかどうかは雨に打たれたりぺしょぺしょに触られたりして初めてわかる。もしもアナフィラキシーを起こしてしまったら命に係わる。君は、ラナを救いたいと言う強い思いから志願してきてくれたから覚悟の上と言うことで配属させたけど、それは特別なことなんだ」


 アマトの言っていることはもっともだ。

 結局、俺が一人でやるしかないってことか。


「君がラナを助けたくて、戦闘に効率性を求める気持ちもわかる。でも無理を打ってすべてを終わらせてしまってはいけないんだ。この“焼き立て屋”は、湿り切った人類のシリカゲルのような存在なんだ」


 わかってる。でも……くそ。


「もしも今無理をしているのなら、前線を退いてもらっても構わない」


 俺は良菜を救いたいだけだ。その願いが叶えられないなら、前線で戦う意味はない。だが、俺が退けば、もと木阿弥もくあみ。良菜救出の可能性が減ることになってしまう。


「いえ、やりますよ」

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