第2話 鬱蒼としたこころ折れず
目を覚ますと見知らぬコンクリートの天井が広がっていた。
どうやらベッドの上に居るようだ。上体を起こすと掛けられていたタオルケットがくたっと落ちて素肌が見える。視線がタオルを追うと頭痛が走った。骨の内側から緩く脳を押すような鈍い痛みが、どくどくと脈を打つ。
「動かない方がいい」
春風のようにやわらかい声だった。
声の方に目をやると、眼鏡の奥から真剣なまなざしを送る青年がパイプ椅子に座っていた。痛みが引いたことを視線で伝えると、彼の切れ長の一重瞼はホッとしたように優しげなまなざしに変わった。
「僕は
「
アマトはおもむろに立ち上がり、ブラインドカーテンを開けた。窓の向こうにはさらに大きな部屋が広がっており、人々は談笑したり読書をしたり、それぞれ思い思いの行動をしていた。多くの人は白無地の病院着を着ている。
「ここは“
目の前に映っている景色と噛み合っていない。幻聴だろうか。
窓の前を通った女性が、お盆を持ってこの部屋の前で立ち止まった。アマトは扉を開けて彼女からお盆を受け取った。
「詳しい話に入る前に、これを」
アマトが差し出したのはコッペパンとミルクだった。お盆に載ったままのそれらを受け取り、ベッドサイドテーブルに置いた。
ミルクを飲んで、それからコッペパンを頬張った。やわらかい。そしてほんのり温かい。焼き立てだろうか。舌に触れるとそこから優しい甘さがじんわりと溶け出した。
「それは君の中のぺしょぺしょを取り除く薬なんだ」
「……ぺしょぺしょ」
オウム返しする。どう見てもパンだったけれど、薬なんだこれ。
「そう。ぺしょぺしょになって街を彷徨っていたんだよ、君は。だから僕たち“焼き立て屋”がコッペパンを撃ち込んだってわけさ」
さっぱり意味がわからない。けれどこの人たちが俺を助けてくれたのは間違いなさそうだ。俺がぺしょぺしょになったのも事実だし——
「あ!」
俺が大声を出すとアマトは目を見開いた。
「あの!
「ラナ?」
「
言い終えたとき、アマトの眼鏡が眼前にあった。
「残念だが」
彼は両手で俺の胸を
「僕らが見つけたとき、君は集団からはぐれていてね。助けた人たちはみんなここに居るが、ラナと言う名前は聞いたことがない」
「そう……ですか」
ベッドに座り直す。尻が深く沈む。
この施設に居ないということは、良菜はいまだにぺしょぺしょってことだ。
絶望と言う言葉を思い浮かべたとき、暗さを連想するのは正解かも知れない。今、明かりが一つ消えたような錯覚を覚えてしまうほどに、目の前が暗くなった。
視線を
コッペパン。
あれ? さっきコッペパンを撃ち込んで俺を助けたって……。
「ぺしょぺしょって、治るんですか?」
「そのために僕らはコッペパンを焼いている」
アマトの両腕を掴む。
「仲間に入れてください!」
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