第43話 我ら生まれた日は違えど、ヒロインを思う気持ちは同じ!
問いかけに対して、返事はすぐに来なかった。というよりかは、何か言い出せずに喉仏辺りでモゴモゴ鳴らしては、ブランケットに包まれていても言葉にすることを悩んでいるようなシルエットが見えた。
自分から話しかけといてなんなのよ、とんでもないことをカミングアウトするんじゃなかろうな?
しばらくすると、決意をした雅人がかすれ具合のあるトーンでこんなことを口に出した。
「――ありがとうございます」
「なにに対して?」
えっ、お礼? あの雅人が……? みたいな温かい気持ちにもなれない。鼻をほじりながら、冷めた返答を突っぱね返す。いやだってさ、本当に何に対して感謝しているのか不明なわけ。主語をね、もうちょっと頑張りましょうって感じ。
「愛理先輩と仲良くしてくれてのお礼ですっ!」
今度はブランケットに丸まって、逆切れ気味に言い返す雅人。もうこれ以上は言いたくないの意思表示らしいが、知ったこっちゃない。
「だーかーらー、なんで私がお礼されなきゃいけないの? ちゃんと最後まで言いなさいよ。もしかして察してちゃん? いるいる、そういった子。いやだわ、めんどくさっ!」
「あ~もぉ! 分かりましたよぉ! ……パイセンと仲良くなってから愛理先輩に笑顔が増えたんですよ! だから毎日楽しい愛理先輩を見れるのは僕も嬉しいことですし、それは間接的にパイセンのおかげかなって、そう思っただけですぅ! 終わりです、おやすみなさい!」
「あら……そ……?」
びっくり。ブランケットにくるまった状態のまま、大声を出してまで言うことかね。そこは男のプライドっていうの? 恥ずかしいなら恥ずかしいで胸の内で秘めておけばいいものを。やっぱり無理。末っ子キャラの雅人のことが一番苦手かも。顔を合わせば、愛理に隠れて憎たらしい態度でクソ生意気だけど、唯一分かり合える共通のことが判明した。
「ねぇ!」
「もおなんですかぁ~?」
「愛理を大事に思う気持ちは同じってことでいいのよね?」
「そうですねぇ~、そうしておきますよ。じゃあ僕はもう寝るんでぇ」
「そうね。明日はテストなことだし……あっ、そうそう!」
「まだなにかぁ?」
「寝っ屁したらごめんね」
「早く寝てください」
それから私は自分でも驚くほど、瞬時に眠りにつくことができた。深い睡魔の波に流されて眠りに落ちていく間、なぜか雅人のピロートークが耳の中で再生されていく。隣に本命が眠っているのになんで男を思いながら寝なきゃいけないのやら。まあ、ほんのちょっとだけ本当の雅人と話し合えたのかな、なんて思ったり――。
雨風が通り過ぎて太陽がサンサンと昇った朝、
「うわあああ~!! 遅刻するぅ~!! パイセン、愛理先輩! ヤバいですってぇ! 早く起きてください! どおして睦月にい起こしてくれなかったのぉ~!」
ベッドの上で寝ている女子組は雅人のけたたましい悲鳴で飛び起きた。非情なことに他の三人はとっくに学校へ行ったと白髭執事に告げられた。金持ちなだけに今日だけ学校の制服を借りて登校しようと話に。どうしてこの家に女子制服まで常備してあるのかは聞かないけどさ……。
「ふぇ? 雅人くんと桃尻さん……どうして私の家にいるの……?」
「んもう、この寝ぼけっ子め! ここは愛理んちじゃないぞう? ……なんてことしてたら、本気でマジでヤバい時間じゃないの! はい愛理、服を脱ぐからバンザーイ!」
「ふぁい……」
「急いでくださぁ~い」
「うるせぇ! こっちは今から禁断お着換えタイムじゃ! 覗くな!」
朝に弱い愛理をなんとか起こしてから服を着替えさせて、さりげなしに訴えられない程度のボディタッチ。もう遅刻確定と思っていたところへ、白髭執事がベンツで公道を爆走してくれたことにより、テストにはギリッギリで間に合い、無事に受けられた。
え? 赤点は大丈夫だったのかって? うん、八十五点以上はとれて留年回避でダブルピースの人生薔薇色のはずが、今度は三人に「どうして三人同じ部屋で寝ていたのか、納得いく説明を」なんて私が主に責められてしまい、違う意味で吊り上げられてしまった。トホホ、乱パなんかするわけないじゃない。なによこのオチは。
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