第42話 起きぬなら、起きるまでペロペロ松風愛理

「交際もしていない男女が同じ部屋で一夜を過ごすなんて破廉恥でしてよ」


「そこはちゃんとしているので大丈夫ですぅ。パイセンはご自身のお部屋に戻ってくださ~い」


「いる!」


「部屋に帰ってください」


「いるったらいる!!!」

 

 断られようが問答無用。一歩もどかずに、ここで寝てやるという熱意ある姿勢を見せていれば、ついに雅人が折れた。といっても、すんなりではない。超渋々で。


「あ~もうっ! 分かりましたよ。今夜は特別にパイセンを僕の部屋で寝かせてあげますよぅ!」


「おっ? サンキュー、分かってるじゃない。じゃ、そこにあるブランケット借りるわね」


 その辺に落ちていたブランケットを取ってから身を包んで、ごろんとフローリングの上に寝転んだ。とすれば、苦笑いをした雅人がベッドから降りて来てこう話す。


「いやいやぁ~、なに床で寝ようとしているんですかぁ。僕が床に寝るのでパイセンはベッドを使ってください」


「へ? わ、私がベッド……愛理の隣で寝ていいの!?」


 こやつ正気? 恋のライバルに最高の性的ベストポジションを譲るとか何事? 普通譲らないでしょ! 私があっちの立場なら目を盗んで無防備愛理をいただくってのに……映画ドラえもんのジャイアンみたいな、いい奴化きた!?


「本当は嫌ですけどぉ、パイセンも女性ですからねぇ……はぁ……」


 ああ、なるほど。ジェントルマンの精神から仕方なくってわけね。――にしても、すんごい嫌な顔と重くて長いため息。だったら最初からやるな。だ・け・ど・結果的には愛理の横で一夜を過ごせるからラッキーね!


「愛理先輩の嫌がることしたら、すぐに恵にい達に言いつけて出禁にしますんで、覚悟しといてくださいよぉ」


「うーす、ですわ」


 釘をさす言葉を軽くすり抜けて、私はウキウキでベッドイン。


 すごい。こうやって好きな子と同じ布団で横一列に並んでいるなんて、奇跡だ。こんな経験、滅多にないから観察タイムといこう。クークーと大人しい寝息に、赤子のような寝顔と、愛くるしいリンゴほっぺ。うんうん、まだ我慢できる。


 お次はファッションチェック。寝返りで胸のボタンがとれそうでとれない、はだけかかったパジャマ。うーん、ギリギリセーフ……ッ! 男だったらギンギンに興奮していた。危ない危ない。ふふ、次は下半身を……。


「パイセン」


「い……っ!?」


 暗闇無音空間だったとこへ、雅人の声が唐突に一発目の花火みたく打ち上がったのと同時に、自分の心臓も喉周辺までこみ上げてきそうになった。下に焦点を当てようとする前の一声。全部雅人の計算上、見透かされていた……っ!


 ここからの展開は、卑猥な行為を吊るしあげられて、男どもにサンドバッグにされてから金持家出禁ルート……に、なると決まってない。そうよ、まだ慌てるような時間じゃない。こうなったら奥の手。クズだけど言い訳を思いつくだけ上げていこう。それか最悪開き直り。


「なにかしら?」


 ベッドの上で、強張っていく面持ちをして次にどう相手が仕掛けてくるのか神経を研ぎ澄ましていた。



 

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