第39話 油断大敵!お泊りルートに突入☆

 言われたことがすぐに信用できずに、どよめく私たち。これは、金持家でのお泊りルートに入ろうとしている。少し考えれば予想できたことなのかもしれないが、勉強会やらゲーム大会やらでいっぱいいっぱいだったので思いつくゆとりもなかった。


「そんな、今朝のニュースでずっと晴れだって言っていたのに」


「そうよねぇ? 本当に冠水するレベルなのかしら。私が実際に外に行って判断してあげるわ」


「気をつけてくださいね」


 不安げに見守る愛理を背に、重い玄関の扉を開けると荒ぶる冷たい大雨が強風とのダブルコンボで襲いかかってきたのであった。それだけならいい。私はギャグ漫画みたく軽々と吹き飛ばされては、そのままゴッホの絵画が飾ってある壁へ容赦なく叩きつけられてノックアウト。これは、マジであかんやつ。自然を舐めちゃいかんって田舎のお爺が口を酸っぱく何度も繰り返して言っていたのが、身に染みて分かる。


「んふ……っ、大丈夫……?」


 睦月の野郎、無表情で笑いやがって。


 とまあ、私の命知らずな行いのおかげで外はとても危険だと判明したので、今夜は金持家へお泊り会いべんと決行へ。男たちのフラグはビンビン。明日はテストだから朝まで一夜漬けかと思いきや、部屋で自習時間となった。


 何時に寝るのもよし、お風呂も好きな時間に入ってもよし、ゴロゴロしてもよし。これは意外な展開だった。好きな子が家に来てるんだから羽目ぐらい外すのが乙女ゲーのお約束だと普通は思うじゃない。女の子にグイグイいけないのは、青い未経験の証ね。


「まあ、用意された部屋はゲスト用なのもあって快適なのよね。VRやらテレビに高スペックパソコンも当たり前のように設置してあるし……なんなのよ、この家は! 突っ込んじゃ負けなんだけど、突っ込まずにはいられないわ」


 女性の客人なのかダブルベットの横にあるドレッサーには一流メーカーが販売している美顔器と高級ブランドのスキンケア用品がズラリと並べられている。これにはテンションが爆上げ。申し分ない待遇をされて非常に満足。


 だが、これだけは声を大にして言いたいことある。部屋の位置問題だ。私の部屋の隣には恵の部屋がある。肝心の愛理はどこの部屋にいるのかと聞かれたら――隣の隣の隣の隣の隣。名前順でいくと、桃尻、恵、睦月、三咲、雅人がきて、一番角の部屋でやっと愛理のおでまし。


 女子組遠すぎだろってすぐに反論したら、四人から平等にすべきだとかなんとか意味不明なことを言われたまま押し通されてしまったのだ。しかもお風呂の時間の別々だと勝手に決められては、メイドの監視付きで先に入浴させられた。いくら愛理が好きだからってお風呂で貞操なんて奪わないっての。失礼な奴ら。


 行き場のない不満を体内に流し込んでも、前にある問題集を取り組むことにより荒れた気持ちは低下していきその分、集中力がテスト勉強に注がれていく。その結果、我を忘れて自習を始めてから三時間半が経とうとしていた頃、眠気や長時間同じ体勢なのもあり、疲れがでてきた。寝不足でテストに力を出せなきゃ意味がないので、もう今日は明日のために大人しく就寝することにした。


「覚えることは叩きこんだし、赤点は回避できるでしょ……そうだ、寝る前にトイレ行こ」


 寝ぼけ眼をこすり、トイレを目指して廊下を歩いていれば、タイミングよくトイレから出てきた愛理とばったり遭遇。そんな彼女も眠すぎて目が3になりかけている。ガーゼコットンのパジャマワンピースが実に可愛らしい。


「今からおやすみですか?」


「ええ、勉強しすぎてパンクしちゃいそうよ。愛理もこれから寝るの?」


「はい。私もさすがに……ふわあ~……ごめんなさい。あくびが……」


「うふ、いいのよ。おやすみなさい」


 寝る前に可愛いのどちんこを拝ませてくれてありがとね。


 愛理の睡魔が限界を迎えて、酔っ払いみたいな千鳥足。やだちょっと、転ばないでよ? 気がかりになって、トイレに入るのを後回しにしていれば、奥から二番目の部屋にちゃんと入っていく愛理の最後まで確認して深く安堵をする。


「さぁてと、何事もなく一日が終わったことだし! 私も早く夢の中に行きますか!」


 人肌ほどの温かさがある便座に腰かけて用を足し終えようとしたとき、なんとなく先ほど愛理が戻った部屋のシーンをリプレイしてみた。


 なんだろう。なんでもないはずなのに、胸がざわざわっていうか、すごく引っかかるのよね。男ともすれ違わないで部屋に入っていった。そしてドアを開けたのは奥から二番目。ん、あれれ? 


「たしか……愛理の部屋って一番奥……奥から二番目は……」


 クソショタ属性、雅人の部屋――!?

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