第40話 どうあがいても、事後
愛理は寝ぼけていた。だから自分の部屋と勘違いして普通に何事もなく入っていったんだ。雅人が起きているならまだいい。でも起きずに、もう既にベッドの中にいたとして、無防備な愛理が潜り込んできたら? 思春期の男子なら、やることはひとつ。生まれたままの姿で抱き合ってS……。
「へいやああああぁぁーっ!!!」
便器にあるブツを流すのも忘れ、この世の終わりといった絶望した叫びを上げて座り込む。テスト勉強のことばかりで油断していた。夢の中までが「ぐちょメモ」だったんだ。
「私の馬鹿! 絶望している場合じゃないでしょ!」
――部屋に乱入して止めてやる。雅人ルートに入る前に、この桃尻エリカが愛理と雅人のフラグをバッキンバッキンに折りまくって、雅人を再起不能にする覚悟でやってやるわ。
トイレを出てから騒ぎを三人に気づかれないよう廊下はそろりそろりと歩いて、雅人の部屋の前に立ってからドアノブを掴む。開けたいのは山々だけれど、躊躇してしまう気持ちがどこかにあった。
だってもし、事の最中だったらどうするの? もし繋がっていたら? もっと最悪なことを例えると、愛理が女性の悦びを知ったような表情を男に見せていたら? さっきまであった強気が弱気に代わっていくが、次第に現実にもなっていないタラレバばかりが出てくる自分自身に苛立ちを覚えた。
「ふん、男とやってようがなんだっていうの。桃尻ルートにするためには、いずれこんな経験のひとつやふたつあって当たり前じゃないの。――というわけで雅人! 入るわよ!」
力強く握りしめたドアノブを前に押して扉を全開にした。そうすると部屋の中は暗く、カーテンの間から雨風に揺れた月明りが窓際にある大きいベッドに差し込んでは――ベッドの上でぐったりと横になる愛理の傍ら、上半身を裸で愛理を優しく見つめる雅人がいた。
そんな事後らしき場面を目撃した私は一気に谷底へ落とされてしまい、顔中にぷつぷつと丸い汗が生産されては支えている二本足がガクガクと鳴った。
夢? これは夢なの? 夢なら覚めて。覚めてよ。……ところがどっこい。夢じゃございません。現実、これが現実です。短時間でヒロインが胸元がはだけかかったパジャマで男のベッドにいるなんて、あんまりだ。惨すぎるよ、神様。
「え? ちょ、パイセン!? なにしに来たんですか!?」
雅人は愛理の髪を撫でている途中でようやくこちらの存在に勘付いた。
「んもぉ、いるならいってくださいよぉ~」
現時点でぶっ殺したい人間ランキングナンバーワンの口ぶりが耳から離れず、いつも以上にぶっ殺したい。
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