第29話 悪役令嬢VSショタ属性、ファイ!
愛理の柔らかな白い手は、いつからか私の両手をすり抜け、真剣な目つきは四人に変わっていた。金持兄弟の勉強ができる高スペックに惹かれては、じりじりと歩み寄っては、熱を帯びているのがこちらにも伝わる。愛理も自分の勉強で精一杯。だったら教えてもらう先生的役割がいたほうが断然いいに決まっている。私にも好都合な条件なのだが、一時の妄想があっけないほど消えて去ったことに悲しいやら虚しいやら惨めやら。
暗い顔をしていると、雅人が突如後ろからささやいた。
「も・し・か・し・て~? 愛理先輩のこと、独り占めしようとか思っていましたかぁ? ぷぷ、残念でしたぁ~」
このチビ、いつから背後にいたのよ。小さいから余計に動きが見えなかったのもあるだろうけど、小馬鹿にする言い方が本当に無理。たかがお姉さん方に受けやすいよう作られた、チープなショタ属性の分際でよくヒロインに挑もうって気になれる。
「あ~ら、オホホ。なんのことかしら? 私も信用されていませんわね!」
「当たり前ですよ。僕たち兄弟は、基本パイセンのこと信用していません」
「オホホ、憎たらしいこと」
「僕もあなたが憎たらしいですよ」
あえて耳打ちをされたままの格好で言葉を返す。雅人もそこから姿勢や位置を変えずに通常とはワントーン下がり気味で答えた。目線を合わさなくとも、雅人との距離の間にはたしかにバチバチと激しい光がかち合った。
こうして二週間後のテストに向けて、前日の日曜日は金持家でみっちりとテスト勉強会をしようと話はつき、この日はお開きとなった。
それまでは帰宅して机にかじりつく日々の無限ループ。教科書やワークや課題を一通り書いては覚え、声に出して読んでから若林お手製の夜食を補給。それと分からない問題を教えてもらってはまた課題と自習の書いては覚えの声出し覚え……。学生を彷彿とさせる勉強法で一夜漬けするときも少なくはなかった。社会人になればオールは結構しんどく体調にも影響を及ぼしたりもしたのだが、若さというものは素晴らしい。多少の眠気はあってもそれほど辛さはなかった。
――そして、ようやく迎えたテスト前日の日曜日。
午前九時に金持家に集合ということで、私は愛理と待ち合わせをして一緒に行く約束をちゃっかりとこぎつけたのだ。滅多に拝めない愛理の私服。それも転生して初めて休日に会うという何気に重大イベントが起きようとしている。
ちなみに私、桃尻エリカの今日のコーデは、サーモンピンクをベースにしたフリル満点のブリブリドレス。……しょうがないじゃない! クローゼット開けたら見事に紅白の小林幸子専用? ってくらいド派手なドレスしかなかったのよ!
「あ~もう、楽しみっ! どんな服着てくるんだろう? やっぱ女子っぽいワンピ? それともギャップのあるパンツスタイル? うわぁ、どっちも捨てがた~い!」
バス停近くにある自販機の前でソワソワと待ちこがれても、時刻はまだ三分しか経っていない。「ごめんなさい、少し遅れます」なんて可愛いウサギの絵文字が入ったメッセージをスクリーンショット。それを愛理から送られてきたメッセージ専用フォルダに保存して時間を潰していた。
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