第20話 最後までブレない私でいけ!あなたのことが好きだから!
死の間際には走馬燈が走るなんて聞くけど、そんなことない。だけど不思議な感覚だった。ゆっくりと時が遅くなったように、背中をイナバウアーみたく反らしながら落ちていく。
嘘。私、また死んじゃうの? だったら次こそ本当に死ぬ? それかゼロから始まるぐちょメモ生活? どちらにしても、そんなの嫌よ。認めない。やっと推しの子に近づいて思いを伝えた。手にも触れた。体温だってまだ覚えているんだから……っ!
「こんなところで終わるわけにいかないでしょおおーっ!」
迫りくる死をあっさり受け入れる肝なんか備えているはずがない。ぎゅっと目を閉じては、雄叫びにも似た大声を上げて落ちていこうとしたとき、たしかに右の手に、ささやかな人の体温を感じた。ちょっと汗ばんでもいる。でも足元は宙ぶらりんの状態だ。何が起こったのか。直ちに顔を上にやると、愛理がいた。倒れていく私を助けようと危険を顧みず柵を飛び越えて、小さなか細い両手で私の一人分の体重をやっとの思いで支えていたのだ。
「愛理、あなたなにして――」
「いまっ、あげます……からっ」
そう答える愛理はいつものように笑っている。上げるなんて言っているけど、できっこない。喋っている間にも愛理の上半身が下へズルッと下がってしまった。優しい嘘のつもりなのか。こちらに不安と恐怖を与えないためか、悲鳴をするのを我慢して下唇を噛んでいた。
こんなの五分ももたない。かえって二人一緒に下のコンクリートに落ちてしまう。この子が落ちるくらいなら、潔く一人で死んでやるわよ――!
「ありがとう愛理。もういいよ。離して」
「は、離すなんて! そんなことできません!」
「いいのいいの、大丈夫。あなたに危険が及んだら四人に何されるか分からないし。それに私、一回死んでるから平気。慣れっこなの。死ぬのは大丈夫」
「嘘つかないでください! どうしてそんなことが平然と言えるんですか?」
明るく取り繕っていることに愛理には見抜かれていた。涙声で訴えているが、そこには私が死を望むことに一喝して爆発したような感情が手の平を伝ってきては、私の全身へと巡った。ゲームでも見たことも、聞いたことのない、愛理の立腹。私自分の知らない彼女を見て、出会った日のことがフラッシュバックされた。何百枚にわたるゲームのCGたちがこれぞ走馬燈といって流れては、心臓は穏やかに高鳴っていた。
「だってあなたのこと、大好きだもん!」
私は白い歯を見せて、とびきりの笑顔を見せてから右手の握力を緩める。重力が私の足首をずっと掴んでいたのかってくらい、落ちていくのは速かった。最期まで愛理は顔を覆ったりせず、なにがなんでも私を掴もうと身を丸投げしそうなギリギリのところまで体をコンクリートの端にくっつけていた。
あと地上まで五秒もないかな。痛くありませんように――。
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