悪役令嬢・ロワイヤル

木古おうみ

プロローグ:悪役令嬢・オブ・ザ・デッド

 地獄はどんな場所かと言われれば、細かな細工の絨毯が敷かれた大理石の床と、絢爛な彫刻のされた壁の張り巡らされた豪邸の形をしていると答えるだろう。




 豊かな金の巻き毛に、先程までその中に収まっていたはずの脳味噌が絡みついている。

 赤の絨毯は、上に横たわった令嬢の血を吸ってどす黒く染まった。


 後ろで押し殺したような呻きとえずく声に続いて、吐瀉物があげる濁った水音が響いた。

 別の少女のつんざくような悲鳴がやけに遠く聞こえる。



 無惨に横たわる、先ほどまで王国近衛兵長の娘・シンクレア・アンブローズだった亡骸を、黒服の男たちが絨毯ごと巻き上げて手際よく片付けていった。



「何でこんなことになってるの……」

 胃液で細い指とドレスの裾を汚した少女が呆然と呟く。


「こっちが聞きたいわ……」



 ここにいる全員が待ちかねたパーティのはずだった。


 若く賢く美しい辺境伯の妻になる女性を選ぶため、家柄の確かで才色兼備の九人の令嬢たちが各地から集められたパーティの会場は、血と脳漿が彩る地獄絵図と化した。



 私は何を間違ったのだろう。

 最初からだったのかもしれない。


 悪徳貴族のひとり娘と周囲から恐れられつつ十八歳になった、花嫁候補のひとり、ハーデスティ・ソーヤーはここまでの道程に思いを馳せた。

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