第3話 未来の英雄カイン

 半年ぶりに地に足をつけた俺は大きく呼吸をする。久しぶりの空気は……


「がはっ!」


 息ができない……でも当たり前かもしれない。半年ぶりの呼吸なのだから肺に詰まった水が痛い。咳をするたびに肺から水が出る。すでに地上に出てから5分近く呼吸していない……。


 わかっていたことだがこの世界の酸欠は、必ずしも死に直結するわけではない。HP(体力値)それが全てだ。ただ酸欠が続くと体力の減る割合がどんどん増えていく。


 回復の泉から出て体力自動回復(極大)のみで命を繋いでる状態だ。早く呼吸できるようにならなくては、すると脳内にお馴染みのアナウンスが聞こえる。


「臓器操作 獲得」


 鑑定で詳細を確認する。


 臓器操作:自分の意志で任意の臓器を動かすことができる。


 まさにご都合主義! 俺は自分の肺に意識を向け、水を押し出す様に動かした。


「ごほっごっほ!」


 大量の水が口からでていく。そして息ができるようになった。空気が冷たい冬だ。半年ぶりの空気は美味しい。というか俺の意識が覚醒してから初めての呼吸とも言える。空気が冷たくて頭がクラクラする。


 呼吸ができるようになって空腹も気になってきた。何かいい感じの動物いないかな?


 前方の木が揺れる。警戒してみるとイノシシだった。最高だ! ここで狩って焼き肉パーティだ。


 俺はそばにある木から大きめの枝を折り突き刺す為に余計な枝を折った。完璧だ。後は殺るだけだ。


 イノシシは、何かを食べているようで全くこちらに気がついていない。しゃがみスニークしてイノシシに近づいた。一気に体を突き刺し行動不能にする。苦しそうな声を上げるイノシシ


「ごめんな。弱肉強食なんだ」


 イノシシを殺したあとに気がついた。捌くものを持っていない。すると背後から気配を感じた。ごつい剣を持った体格のいい男だ。


「坊主、それを一人で狩ったのか? すごいな貸してみな俺がさばいてやる。それと男料理でいいなら味付けもしてやるが?」


「是非お願いします!」


 俺は、食欲につられ元気よく返事をしてしまった。


「それにしてもこんな所に子供がいるのは感心しないな、なんでこんな所にいたんだ?」


「はい、半年前に起きた大雨で流されてしまって、やっとここまで帰ってきました」


「な、流されたってよく生きてたな……半年前と言うとあの時の大豪雨か、マル野村出身か? 坊主名前は?」


「あ、えっとあ、エルビスです」


 なんとか不自然にならないタイミングで名前を思い出すことができた。


「そうか、エルビスか。俺はカインっていうんだ。しがない冒険者さ、いつかは英雄と呼ばれるそんな人間になりたいな」


 キラキラとした瞳で夢を語り始めた。それはいいからイノシシ早く捌いてくれないかな。


「おっとすまぇな。直ぐに捌くから待ってろ」


 そう言ってカインさんは慣れた手付きでイノシシを解体し始めた。俺はその間に木の枝を集め始めた。


「よし、今から焼くぞ。待ってろよ」


 カインさんはバッグから石を取り出した。


『ファイアー』


 そういった瞬間、石から火が飛び出た。そして俺が集めた木に火を付けた。


「おお! すごい」


「何だ坊主、魔術石は初めて見るのか? こいつはな、簡単な魔法を一つだけ込められる。後は魔法の才能が無くても魔力があれば魔法が使えるって寸法よ!」


 自慢気に魔術石をヒラヒラと見せびらかした後、ポケットに仕舞った。そして捌いたイノシシを焼き始めた。肉の焼けたいい匂いがする。


『グルルルルル』


「はは、何だ坊主そんなにバカでかい音を立てて、そんなに腹減ってんのか少し待て」


 やばい、スキルで抑えていた飢餓感が帰ってきた。しぬぅぅぅ早く肉を


「ほらまずは一つだ。食え」


 俺は、カインさんから肉を掻っ攫い口に詰め込んだ。話す余裕などあるはずもなくひたすらに突っ込む。


「いいねぇ豪快な食いっぷりだ。ほら次焼けたぞ」


「いや、いいです」


「は? あんなに食ってたのに急にどうしたよ?」


「あまりにも空腹なときって意外と量を食べれないことってあるじゃないですかあれです。お腹いっぱいです」


「う、嘘だろ? 結構焼いたぞ? 俺」


「すみません。残りはカインさん食べてくれませんか?」


「わ、分かったよ」


 3時間後


「いやマジ食えねぇからほぼ丸々一匹イノシシ食えって腹が死ぬ。エルビス、お前もそろそろいけるだろ? 少し食ってくれ」


「わかりました。そろそろ日も落ちますし晩ごはんということで食べます」


「やったぜ!」


「ところでカインさんはなんでここに来たんですか?」


 俺はイノシシを食べながらずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。


「ん? ああ、最近ここらで怪しい術を行使している輩がいるって話を聞いてな。討伐に来たんだが」


「なるほど、それは大変ですね」


「ああ、まぁなでもここまで来たらお前を村まで送るから安心しろ」


 カインさんは頼もしく胸を叩いたが振動で肉が器官に入ったらしくむせ始めた。

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