第59話 魔眼の使い道

 精霊の涙の授業の翌日、昨日は結局俺達以外に精霊の涙を提出したクラスはいなかった。

 何でも、誰かの魔法が森の一部を吹き飛ばして、せっかく対話していた精霊が逃げたらしい。


「こら! エルビス君 授業中にぼーっとするな!」


 ヴァリオン先生の叱責が飛んでくる。俺は考え事を中断して黒板を見る。今日の授業は、『特殊な目の持ち主の特性について』、だった。


「聞いてなかったエルビス君のためにもう一度説明すると、特殊な目というのは基本的に生まれつき持っているもので、後天的に獲得する例は少ないんだ」


 そう言えば、俺の聖眼は後天的なスキルだったな。スキルの内容は魂への負荷の認識とパッシブスキルのオンオフの選択だったはず。あまり使わないから詳細は忘れてしまった。


「ウチのクラスには、特殊な目の持ち主が二人いる」


 そう言われて心臓が飛び上がった。一人はクラウドだ。もうひとりって俺か?


「まぁ、クラウドくんの魔眼とサレンさんの未来眼だね」


 俺じゃなかった。というか俺ら3人特殊な目の持ち主だったのか……未来眼についての詳細を聞こうとより授業にのめり込む。


「未来眼はその名の通り自分の未来を見通す目だ。王族の城に住んで国の未来を見続けるなどの任務を任されることもよくある。王城にいる未来眼の持ち主に何か起きたなら国を揺るがす何かが起きたということになるからね。未来眼の持ち主は重宝される」


「魔眼の持ち主は、特にこれと言った仕事を回されることはない。だが魔眼の持ち主は錬金術の重要な触媒になるんだ。魔眼を魔眼の持ち主からくり抜いて錬金板に乗せて錬金するだけで超強力な錬金道具が錬成できる」


 その説明を聞くとクラウドは机に頭を付きカタカタ震え始めた。そりゃあ、自分の目が錬金術師に狙われるものだと知ればそうもなるだろう。


「その二人以外にも精霊から後天的に貰い受ける精霊眼は、とても面白い。なんでも精霊眼の持ち主にしか見えない物が見えるらしい」


 再び俺の心臓が飛び上がる。ヴァリオン先生が俺を見ながらそう言ったからだ。とっさに目を反らしメモを書くふりをする。精霊眼は別に持ってないけどな……


「他にも、灼眼とか分析眼などなどあるね、一番有名なのは神眼だ。この世のすべてを見通すと言われている」


 ここで鐘がなった。授業の終わりを知らせる鐘だ。授業が終わった途端クラウドとサレンさんがこちらに来た。


「エルビスは精霊眼持ってるの?」


 サレンさんがオレにそう聞いてきた。精霊と契約してる事から授業中ずっと気になっていたんだろう。


「いや、精霊眼は持っていない」


「エルビス君、精霊眼は持ってないってことは他の特殊な目は持ってるんだね?」


「まぁな、あんまり意味がない目だから気にするな」


 そう言うと二人は少し、しょんぼりした。


「少しいいかい? クラウド君」


 教室の扉からかなり美形の男が入ってきた。


「こ、校長先生! ど、どうしたんですか?」


 ヴァリオン先生が美形の男にそう言った。あのイケメンが校長先生なのか……


「ああ、少しクラウドくんに用があってな。少し借りるけどいいかな?」


「クラウド君、校長先生のところに行ってきなさい」


 ヴァリオン先生にそう言われてクラウドは校長先生の方へ向かった。


「それでエルビスは、どんな目を持ってるの?」


 サレンさんが諦めずに俺に更に聞いてくる。どうしても気になるらしい。


「まぁ自分の事が少し良く分かる程度のもんさ、そんなに気にしないでくれ、それよりクラウド大丈夫か? 校長は黒錬金術師なんだろ? やばくないか?」


「ん? 黒錬金術ってだけでそこまで警戒する理由が分からない。むしろ黒錬金術は尊敬するべき技術」


 そうだった……すごい新技術というのが世間の認識だった。未だに黒魔種との関連性が判明してないんだから仕方ないか……


 そんな会話をしているとヴァリオン先生が来た。


「少しいいかい? 今週末にエルビス君には黒の魔窟の探索をしてもらいたんだ」


 教師が一年生にダンジョン探索の依頼を出してきた。本来禁止なはずだ。


「どういうことですか? 一年生はダンジョン探索禁止のはずでは?」


「まぁそうなんだけどね……実は黒の魔窟に新区画があることがわかったんだが、黒魔種の量が尋常じゃなくて誰も入れないんだ。黒魔種バフリスクを単独で倒した君にしかできないと言う話になって直々の指名だよ。成功報酬は白金貨5枚だ」


 成功報酬50万か……命を対価にするには安いがダンジョンには心が惹かれる。うけてみる価値はある。


「わかりました。週末ということは2日後ですね? 準備しておきます」


「良かった。断られたらどうしようかと思ってたよ……何でも黒の魔窟には錬金術の極意がかいてある本があるらしい。校長先生も僕も興味津々さ」


 ヴァリオン先生は楽しそうにそんな事を言った。俺とヴァリオン先生の話が終わった直後クラウドが来た。


「おお、おかえり……どうだった?」


「う、うん僕の魔眼についての話を色々聞かれたかな? でも大したことじゃなかったよ」


 そんな事を言ってクラウドは席についた。その日の授業はそんな感じで終わり俺達は家に帰った。


シルヴィ襲撃まで後1日 


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