第57話 疑惑の目

 今日からとても気まずい日々が始まる。半年前はピカピカな教室だったが、クラス対抗戦に破れたのだろう。ボロボロの教室だった。そして俺達を見る目は怨念のようなものが籠もっており最悪だ。



 そんな中今俺が一番警戒しているヴァリオン先生の話が始まる。



「さあ、昨日は精霊について話したと思う。今日は精霊の涙と言う物を探してきてもらおうと思う。今日の授業はクラスポイントにある程度ポイントが入るのでしっかり探すように」


(妙ですね? 精霊の涙なんてそんなポンポン取れるものでは無いんですけど)


 ディーネが頭の中でそんな事を言ってきた。そんなレア物を授業の課題で出すなんてますます怪しい……


 クラスのみんなが精霊の涙を取るためのパーティを組み始めたので俺達もクラウド、サレンさんの二人とパーティを組んだ。そして始まりの鐘がなった瞬間Eクラス一同は全力で森へ走っていった。


「なんだい? そうか、君たちは授業を聞いてなかったからヒントが欲しくてここにいるんだね?」


 ヴァリオン先生がそんな事を言ってくる。


「先生……精霊の涙は希少品と聞きました。そんな物が森にあるんですか?」


 俺がそう聞くと面白そうに笑い始めた。不快な笑い声ではなく爽快な笑い声だ。


「アハハハ、バレちゃった? 授業も聞いてないのにその結論にたどり着くなんて素晴らしい。この課題はね、生徒一同がちゃんと自習してきたか調べるためのものさ」


 ヴァリオン先生はこの授業の本当の目的を話し始めた。


「ちゃんと調べて無理だと思った生徒は担任に抗議に来るし、できると思って向かった生徒はちゃんと精霊の涙を持ってくるかもしれない。この課題はそのどちらかができれば合格なんだ。君たちは合格だよ。Eクラス一ポイント。本当は精霊の涙を見つけてくれればそっちのほうが得点が高いから探してほしかったんだけど。後は君たちの自由だ、精霊の涙を探すのもいいし授業が終わる放課後までのんびりするもよし」


 ヴァリオン先生の怪しい行動を突き止めようと思って抗議に向かったんだが、ちゃんと考えがあっての内容だったようだ。


「すごい……エルビスはちゃんと知ってたんだ……」


 サレンさんが本当にそう思ってるの? と聞きたくなる様な声でそう言った。クラウドも感心した目で俺を見てくる。


「どうする? 帰るか? それともディーネを泣かせて精霊の涙を回収するか……」


(ま、マスターひどいです。その一言だけで涙が出てきます。)


 ディーネが俺の頭の中でそんな事を言った。そして、本当に俺の前にキラキラした結晶体が飛んできた。


(マスターがひどいこと言ったので涙が出ました。欲しかったらどうぞ)


 若干恨めしい声で俺に文句を言ってくるディーネ


「エルビス君それ精霊の涙? すごい!これで達成だね」


「早くそれ先生に渡して後は遊ぼ……」


 二人が先生に渡せと急かしてくる。信用できないヴァリオン先生に渡すのは少し嫌だが仕方がない。


「先生……これを」


 先生は俺の手にあるものを見て驚く。


「こ、これをどこで……教室から一歩も出ていないのにこの教室に精霊がいるとでも言うのかい?」


「エルビス君にはディーネさんっていう精霊がいるんですよ!」


 クラウドが勝手にそんな事を言い始めた。その情報を聞き興味深そうに俺を見るヴァリオン先生


「もしかして、キミのそばによくいた青髪の女性の事かい? 彼女は精霊だったのか……てっきり背後霊のたぐいかと思っていたよ。彼女の出すオーラが人間じゃないのは見て分かっていたが君の精霊だったなんて」


「私を背後霊だと思っていたのですか? いくらマスターの担任だからとは言え許しません! 怒りました。マスターこいつをぶん殴りましょう!」


 ディーネが勝手に出てきて、拳をぶんぶんと振り始めた。勝手に出てくるなバカ……クラウドの妄想と言って誤魔化そうとしていたのに


「君がエルビスくんの精霊か……興味深い、白錬金術師としては大変興味深い。もう少し精霊の涙くれないかな? あれは黒錬金術にも白錬金術にも大変重宝される触媒なんだよ。エルビスくんが持っている精霊の涙は提出物だから個人的に使えないしね」


「先生……俺は精霊と契約してるってことは極力黙っていたいんです。そんなに多くの涙を渡したら不審がられてしまします」


 そう言うとヴァリオン先生はハッとして謝ってきた。


「ご、ごめんね……つい欲が出ちゃったよ。そうだね……黙っていたほうがいい。僕も担任としてしっかり黙秘させてもらうよ」


 本当にしっかりした人だ、本当にあの黒ローブの中身なのか? ただ似た手帳を持っているだけなんじゃないか? そもそもしっかりとヴァリオン先生の手帳を見たわけじゃない疑うのは良くないかもしれない。


「エルビス君、その精霊の涙提出するかい? それとも自分で保護しておくかい?」


 ヴァリオン先生が先程の話を聞いて気を使ってそんな事を聞いてくる。俺ももう少しこの人を信じてみることにしよう。


「提出します。大切に扱って下さい。後たまたま見つけたと報告して下さい」


 そう言って俺は教室を出た。この日は後は2人と遊んだ。


シルヴィ襲撃まで後2日


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