第55話 第二章エピローグ

 目を覚ました。 右手は無い‥‥まぁ回復の秘術で復元できる問題ない……


 回復の秘術の生み出す眩い光を見て誰かが部屋に入ってきた。ヴァリオン先生だ。ちなみにディーネは俺のベッドで寝ている。ヴァリオン先生は現在進行系で生えていく俺の腕を見て顎が外れそうなほど口をパックリと開け固まっている。


「な、何を‥‥エルビス君、君は神の術を行使できるのか‥‥だからあの特異体バジリスクを一人で倒せたのか」


 なにか一人で納得するヴァリオン先生の後ろにはクラウドとサレンさんがいた。どうやらヴァリオン先生がバジリスクを解体して毒袋から薬でも作ったようだ。


 そしてその二人もにょきにょきと生えている俺の腕を見て固まっている。しばらくして手が完全に治った。


 気まずい空気が流れる‥‥そんな空気を破ったのはヴァリオン先生だった。


「色々聞きたいとは思うがエルビス君、君はその術を隠したほうがいい。それは色んな人を惑わす術だ、下手したら君を奪うために戦争だって起きかねない」


「忠告ありがとうございます。最初から秘匿するつもりなので安心して下さい」


 俺がそう言うと安心したようにヴァリオン先生はため息をついた。


「はぁ、全く君は指輪のテストを頼んだのにあまりに遅いから追跡魔法を使ったら輝きの洞窟の中にいるから焦ったよ。僕が後からこっそり倒しに行くつもりだったからそんなに焦らなくても良かったのに‥‥」


「先生にあのバジリスクは倒せませんでしたよ」


 そう言うと先生は苦笑した。


「そうだね‥‥毒袋を取り出す為に解体しようとしたんだけど手持ちの剣じゃあ一切傷つかないから恥を忍んで学園長に黒錬金術製の剣を借りて頑張ってやっと解体したんだからね」


 俺たちの会話を参加しづらそうに遠くから聞いている。二人がこちらに来た。


「あ、あの‥‥エルビス君助けてくれてありがとう。僕たちエルビス君を助けに行こうと思ってダンジョンに入ったんだでも‥‥」


「いや、いいさ‥‥俺も黙ってダンジョンに入ったからな心配掛けてゴメンな」


 そんなしんみりした雰囲気にヴァリオン先生が割り込んでくる。


「そういえば君たち全員罰則だからな一年生はダンジョン進入禁止だ」


「あの、先生‥‥俺もですか?」


 ヴァリオン先生が俺も見て頷く。


「君、罰則中にダンジョンに入っただろ。罰則だよ。後、クラウドくんは半年分欠席だからとんでもない量の補修があるから待ってってな」


 ヴァリオン先生がクラウドに地獄の宣告をした。俺とサリナはホクホクの笑顔だ。あぁ一級生徒最高……


「ちなみに一級生徒なのにクラス対抗戦で貢献しなかった二人はクラスメイトからボコボコにされるから安心してくれクラウド君」


 ヴァリオン先生がホクホクしていた俺たちに攻撃してきた。俺たちもヤバそうだ……俺とサリナさんは苦い顔をして顔を見合わせた。


 そして翌日、俺達のいるベルガナ王国に一大ニュースが駆け巡った。


『号外;サリナール魔術学校の生徒が黒魔種のバジリスクを討伐』


 と言った具合だ。名前は伏せられてはいたが問題はそこではない。一体誰が黒魔種という名前を広めたかだ……


 あの黒魔種と言う言葉は俺が便宜上付けた名前だ。俺は今の時間軸において一度も黒魔種と言う言葉を言っていないはずだ。もし言ったとしても新聞に乗るくらい知名度の高い言葉にはならないだろう‥‥つまりあの言葉を聞いた誰かが広めたのだ。心当たりは一人しかいない。あの黒ローブが何かをしたのだ。あいつは、黒魔種という言葉を随分気に入っていたからな……


 例えばだ……例えばあの黒ローブの男があの時書いたメモ。あの手帳がただのメモ帳ではなく黒錬金術製なら? 


 例えばあの手帳が書いた情報を絶対に喪失させないなどの機能を盛り込んでいて、それが巻き戻した時間の今現在でもあの手帳に刻まれているとしたら、ある程度の立場にいる人間なら黒魔種と言う言葉を拡散できる。王族、貴族、記者、学校の先生、情報屋など色々考えられる。ただの推測だが、黒ローブの特定に役立つはずだ。


 まぁ可能性の一つと考えておこう。もしかしたら俺が、ハーミラにいた時冒険者ギルドで口走ったのを誰かが拡散したのかもれない。むしろそっちのほうがあり得る。なぜなら今までに一度も未来予知のような行動をする黒魔種は見たこと無いからな


 俺がそんな推測をしている一方その頃 (シルヴィ)


『バン!』


「うおぉぉ、びっくした。なに? どうしたのシルヴィちゃん」


 私の同級生の友達が驚いて声をあげた。


「う、ううん! なんでも無い少し驚いたことがあってね」


 私はとっさにごまかした。友達が私の持っている新聞を凝視している。


「ああ、あれね。サリナール魔術学校の……私も見て驚いたよ。黒魔種のバジリスクを倒すとかすごい人がいるよね。それが同い年っていうんだから驚きだよ!」


「う、うんちょっと部屋戻るね」


 私は、部屋に全力ダッシュする。走った影響とは違うドキドキが抑えられない。エルビスだ!

  この半年間どこにいるのか不安だった。一切手紙を出してくれないからグレワール魔術学校に取り敢えず入ったけど、やっとエルビスの情報が入った! 私はエルビスの影響で無詠唱の魔法詠唱だから転校したいと言えばグレワール魔術は喜んで私を送り出してくれるだろう。


 私の魔法はこの学校の伝統ある魔法技術とはかけ離れているから学校も扱いに困っていたはずだ。待っててね! エルビス!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る