第28話 シルヴィの指輪
「おいてめぇどういうことだ? あぁん?」
なんだこのDQN、怖いんだけど……俺は今シルヴィの父ゼオンに肩をがっちり掴まれ威嚇されていた。
少し時を遡る、時間は一昨日の夜ローレン宅での話だ。
□
「お父さん! ただいま!」
そんな普段のシルヴィよりテンションが高い娘を見て微笑むゼオン
「さぁ夕食の準備はできている早く席についてくれ。それと今日の話を聞かせてくれ、あ、あとマリアもカイン様とのででで、デートはどうだった?」」
「うん! 楽しかった」
元気よく相づちを打ち椅子に座るシルヴィの手に、さらに言えば左の薬指にはまったダイヤの指輪を見てゼオンは絶句する。
マリアもカインとのデート内容を話していたがゼオンからしてみればそれどころの事態ではない。
確か今日シルヴィはエルビスと共に町へ行ったはずだ。あぁ間違いない。それで?どうしたらシルヴィの左の薬指にダイヤモンドの指輪がハマるような事態になるんだ?
「シルヴィ? その指輪どうしたんだ?」
ゼオンは冷静さを装い務めて優しく質問した。その質問を聞いて、父親に話したくてうずうずしていたシルヴィの顔が桜のように笑顔いっぱいになる。
テレテレした顔がゼオンにストレスを与える。
「えへへ、あのね? エルビスが買ってくれたの!」
バン! という音を立て椅子が倒れるゼオンは歯をぎりぎりと鳴らしながら叫ぶ
「あのくそがきぃ! 絶対殺す!」
ゼオンはエルビスの家に走り始めた。
そんなエルビスの家に向かうゼオンに向けてシルヴィがファイアーウォールを繰り出した。
「あ”づい! 熱い。シルヴィ、俺の邪魔をするのか! これではあいつが殺せないだろ!」
シルヴィに飛び掛かる事はせず火の壁を越えようとゼオンは足掻いている。
「エルビス! 出てこいや! おらぁ!」
「お父さん、屋敷の中で叫んでも意味ないよ?」
シルヴィのツッコミに無言になるゼオン
「もうやっていられるか! おい、酒もってこい。一番度がきついやつだ!」
かなり度が高く普通は何かで割って飲むお酒をそのままがぶ飲みするゼオン
「ぐわぁー効くなぁ喉が焼けるぞ! もっともってこい」
メイドたちが控えた方がいいがと言うがやめないゼオン
そして冒頭の少し前に戻り今日の朝になる。
▽
俺はシルヴィとの遊びの約束を果たすためローレン宅に来ていた。
戸を開けた瞬間ゼオンが飛び掛かってくると思っていたがそんなこともない、それどころか誰もいない異様な雰囲気であった。
恐る恐る侵入すると玄関ホールまで漂う強烈なアルコール臭に思わず鼻をつまむ。
忍び足で部屋を進むとダイニングで倒れるゼオンとメイドたちを発見した。
「おいゼオンさん大丈夫か?生きているか?」
俺はゼオンを揺らすが反応はない。それにしてもひどいアルコール臭だ。メイドたちが倒れた理由はどうせゼオンさんに無理やり酒でも飲まされたとかそんな理由だろ。
俺は窓とカーテン開ける。だが彼らは起きない。生きてるし放置してもいいかな?
そういえばシルヴィはどこに行った? そう思い、探しに出ようとした瞬間足を掴まれた。ホラー映画のような展開に鳥肌が立つ。そして地獄からの声が聞こえ始める。
「おまぇ~シルヴィに何してくれとるんじゃ、あぁん?」
足元にはゾンビがいた。立ち上がろうとしているが小鹿のように足をプルプル震えさせるゼオンという名のゾンビだ。
何かやばそうだったので、調理場まで行って水を汲み、水を持ってゼオンに飲ませると急に立ち上がった。
そして冒頭に戻る。
「てめぇなに勝手にシルヴィに婚約指輪渡してるんだ?お?その話は貴様が貴族にならないと始まらない話のはずだが?」
普通に勘違いだ。俺は欲しいというから買ってあげただけなんです!そしたらお宅の娘さんが勝手に左の薬指にはめたんですよ! と言ってやっても信じないだろう。
「あの話はちゃんと理解しています。僕は貴族になる気はないのでただのプレゼントのつもりです。子供の言っていることを真に受けすぎでは? 子供が言うことがそのまま実現するなら世界は父親と娘の夫婦で溢れていますよ。」
ゼオンは苦虫を嚙み潰したような顔をして納得したようだ。変な顔をしたのはそういう事をシルヴィに言われた事があるからだろう。
「ではエルビス君は、そういうつもりで渡してないという事だな?」
「はい。純粋なプレゼントです。」
ゼオンが急に怒り始めた。
「ふざけるな! シルヴィがかわいくないみたいだろ! 渡せよ!」
ゼオンが俺に顔を近づけて威嚇してくる。いやどっちだよ。どっちでもキレるじゃん。
「じゃあもうおじさんと話すこともないですし、シルヴィと遊んできます。」
俺は酒臭い部屋を出てシルヴィの部屋に向かう。シルヴィの部屋の戸の向こうから変な声が聞こえる。
「うへへへへ、うわぁーえへへへへへきゃあうひひ」
あ、お邪魔しました。帰らせていただきます。じゃあさようなら、また会う日まで。
階段の方向へ足を向けると上機嫌なマリアさんがこちらに来た。
「あら? エルビス君もしかしてリビングのあの惨状見ちゃった?」
「あ、はい。見ました」
「昨日シルヴィの薬指にハマってる指輪見てから暴走してあんな事になっちゃたのよ」
俺とマリアさんの会話の声を聞いたのか、俺の背後の扉が開くその中から不自然に顔を赤らめた『高校生くらいまで成長した』シルヴィが出てきた。
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