第8話 魔力暴走

 水球を吐いた龍は、俺が消えろと命じると跡形もなく消えた。だが未だに龍がいた場所を見続ける二人‥‥気まずい。


 カインさんもとんでもないものを見たかのような目で俺を見る。まぁとんでもないものを見たんだけどな。


 シルヴィの父親は顔を真っ青にして俺から後ずさる。一方シルヴィは俺の方に駆け寄って来た。


「すごい! すごいよ、どうやってやっての? 私もドラゴン出したい!」


「や、やめでくれ嬢ちゃんまでこんなバケモノ光線出されたら俺が困る。この魔法は魔法大学に報告しなきゃな」


「な、なんとかなりませんか? カインさん」


「馬鹿言え、あんな大山一つを平地にするなんてやばすぎるし、あの山がなんで吹き飛んだのか説明できなくなるだろ?」


「そうですか……じゃあシルヴィ普通に魔法を教えるのじゃ駄目かな?」


「いいよ! 教えて」


「っていうか嬢ちゃんに魔法適正はあるのか?」


 そう言えばそうだ。俺は、シルヴィに鑑定を発動する。


  シルヴィ(6歳)

 レベル12

 魔法適正 火、水、聖

 スキル:エルビスへの愛 (ユニーク)


 シルヴィにも魔法適正があった。しかも俺が持っていない適正の持ち主だ。育て甲斐がある。

 聖魔法が俺の気になるポイントだ。スキルについては触れないことにしている。だってスキルって個人の名前が出るものじゃないからだ! それがバッチリ俺の名前がある、どういう事? しばらく考えたが理解できないので思考を放棄した。ちなみにエルビスへの愛はこんなスキルだ。


 ・エルビスへの愛:エルビスが近くにいるとあらゆるステータスが5倍になる。

 エルビスとの距離、関係性、エルビスに向ける愛の大きさで、スキル性能は変化する。最大30倍


 スキルの力を最大まで引き出したら現時点で歴代の勇者の最大レベルを軽く超えてしまう。過去勇者の150レベルなんて霞むぞ! 俺より強くなる可能性がある。まぁいいや。忘れよう。


「あ、カインさんシルヴィにも魔法適性があります」


「ほほう、何属性なんだ?」


「火と水そして聖属性です」


「は? 三属性だと?」


「はい。変なんですか?」


「いや、変っていうかすげーな、才能の塊じゃねぇか、三属性使いなんて世界に数える程度しかいないぞ。そう言えば、エルビスは何属性を持ってるんだ?」


「火、水、風、土、闇、光」


「は? なんて言った?」


「火、水、風、土、闇、光,」


「おいおい、嘘にしてもひどすぎるぜ。そんなのどこにもいねぇよ。分かってるぞ。シルヴィちゃんの前で見栄張りたくてそんな嘘ついたんだろ?」


 めんどくさいからそういうことにしておこう。


「カインさん。河原に来ました。ここなら魔法練習していいですよね?」


「ああ、いいと思うぜ。ここなら吹き飛ばすのはせいぜい森ぐらいだろうからな。村の方には飛ばすなよ。特にエルビス」


 シルヴィを見ると不安そうに俺を見ていた。また流されるんじゃないかと不安なんだろう。


「大丈夫だよ。もう流されないから」


 俺は安心させるために頭をぽんぽんと軽く叩く。シルヴィは安心したように顔をほっとさせた。


 何を教えよう? 俺が実行した感覚をそのまま伝えてみるかな?


「えっと、まず体の中に意識を向けて井戸から魔力を引き出すイメージをする。そこができるまで練習してみて?」


 アドバイスをするとシルヴィは納得したようにふんふんと言うと目を閉じしばらく沈黙した。


「お、おい。詠唱を教えないのか? 詠唱がないと魔法なんて使えないだろ……ってお前さっき詠唱してなかったな! ドドドどういうことだ。魔術石使ってるわけでもないのに」


「スキルです」


 カインさんが混乱しているので放置して魔法練習を始めた。俺は火の魔法の練習を始める。火の魔法は水と比べて扱いが難しい、まず出すところから始めよう。そう考え火炎放射器をイメージして魔法を発動した。


 途端に、俺の魔力を強制的に引き出し魔力が龍の形を取る。俺の中で魔法といったら龍というイメージが固定化されたらしい。


 龍の口から火炎放射器の数十倍の火が出た。あっと言う間に森は大火災だ。


「おい! エルビス何してる。やりすぎだ。どうすんだこれ!」


 カインさんがあたふたしているので、俺は水魔法の派生氷魔法を発動した。再び魔力が龍の形を形作る。だが3回目だ。魔力の方向性を制限した。


 氷のブレスが森を氷漬けにした。氷の体のドラゴンはクネクネ動いている。氷なのにどうやって動いているんだろうか?


「おい! エルビス。今度はカチコチだぞ何とかしろ!」


「無理です。魔力切れです」


 俺の意識は消えた。


「なにこれ・‥‥エルビスくんがやったの?」


「ああ、そうだ。魔力が多いのはいいが、調整ができちゃいねぇ俺が訓練を付けてやるしか無いな。俺も少しなら教えられるしな。詠唱の魔法を教えるとしよう。嬢ちゃんも一緒にどうだ?」


「え、遠慮します」


 そう言ってシルヴィは魔法を発動した。手にろうそく程度の火が出現した。それは詠唱ありではなく。無詠唱でだ。


「ふふふ、エルビスが起きたら自慢しよっと」


 一人喜ぶシルヴィを見てカインは絶句しているのだった。そしてエルビスが魔法を教えたことにより貴族社会のしがらみがシルヴィにというよりシルヴィの父に大きな負担を与えるとはこの時の俺は全く思っていなかった。

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