アルルと秋色③

「しかしアレだな……お前はよく食うな」


 リライの前にお茶碗とインスタントの味噌汁を置き、向かい側に座りながら俺は言った。


「アキーロが食べねーだけですよ。ソレに、うめーと止まらなくなるですよ」


 食費を入れもしねーくせに、ニコニコ無邪気に笑いながら言いやがる。


 せめてお世話になるんなら、いくらか持って押し掛けてきて欲しかったモノだ。


「アレ……そう言えば」


「何ですよ? 早くいただきますしよーですよー」


 辛抱堪らん様子でありながらも、食前の挨拶を済ませずに食うな、という俺の教えを守っているリライが急かしてくる。


「前に会った監視者……アルルとかはさ、食費とか生活費、どうしてるんだろ?」


 俺は以前、時を遡ってある身内を助けた時に出会った少女のことを思い出して、聞いてみた。


「…………」


「てゆーかあいつら、俺がリトライしてない時もあの時代で暮らしてるのか?」


「……そんなに気になるですか。あの女のことが」


 ……しまった。


 と不機嫌顔を隠そうともしないリライを見てから思った。


 こいつはどういうワケだか、あの監視者の少女が苦手……というか嫌いらしい。


「いや、気になるってワケじゃなくて……どうしてるのかなー……って」


「ソレって気になってるってことぢゃねーですか」


 う~ん、まずい。


 迂闊なことを言っちまったぞ。益々リライの機嫌が悪くなっていく。


「気になってねーっつーの。そもそも救済人としてあの連中のことは聞いておくべきだろ。なのに俺が何聞いてもお前が知らねーって教えてくれないから……」


「知らねーモンわ知らねーですよ! なんでせっかくのご飯の時にあんな女の話をするですか」


「そもそもなんでそんなに嫌うんだよ? 味方かどうかは分からないけど少なくとも敵ではなさそうじゃんか。同じ顔してるんだし、同じ死後の世界からきた同類だろ?」


「あんな女と一緒にするんぢゃねーですよ! みんなの前ぢゃ猫被って、アキーロと二人になった途端、偉そーに文句ばっか言って……リライのほーが百万倍おしとやかですよ! ああ! あんな女に猫なんて言葉を使うのわイッショーノフカクですよ!」


 ……どうやら俺は完璧に地雷を踏み締めたらしい。


 しかしリライ、どうもその意見には賛同しかねるぞ……と、思っていたのが顔に出ていたらしく、益々、さらに益々リライは不機嫌になっていく。


「何ですよ! アキーロあの女を庇うつもりですか! もっとケーカイしてねーといつどんな目に遭わされるか分かったモンぢゃねーですよ!」


「だ、だから……」


「大体そーやってボケーっとしてやがるですからあんな女に粘膜を奪われるですよ! あんなポッと出のワケ分からねー女がアキーロに噛みつくなんて、百万年早えーですよ!」


 ね、粘膜って……エグイ言い方をするなぁ。


 しかし何故リライがアルルをこんなに敵視するのか、ちょっと分かったぞ。


 確かに俺は前にあいつと出会った時に、不意打ちで甘噛みされたし、終いにゃ唇まで奪われた。


 ソレがこいつは気に入らなかったらしい。


 兄貴を盗られて悔しいのか、オモチャを盗られた子供のような気分なのか……後者はちょっと嫌だなぁ。


 しかしまいったな。


 リライは完全にお冠状態のようで、今にも俺に噛みついてきそうな勢いだ。


 いや比喩表現じゃなく、マジで噛みついてくるんだこいつは。


 散々殴られて悲惨な目に遭った俺が打撃を禁じて以来、ことあるごとに唇から覗く八重歯が牙を剥くんだよ。


「お腹減っただろ……ご飯食べよーぜ」


「まーだーでーすー! 思い出したらまだまだいーたりねーですよ! そもそも自分が何でこんなにむかつくのかとゆーと、アキーロもアキーロでデレデレドキドキしてやがるからですよ!」


「で、デレデレなんてしてねーって! ちょっと驚いただけだっつーの!」


「いーえ自分の目わ誤魔化せねーですよ。自分あの時アキーロと同調してたから、アキーロがめっちゃドギマギしてたのが伝わってきたですよ! この裏切りも……あ」


 怒り収まらず……といった感じのリライが突然天を仰ぐ。


「え……なんでですか……はぁ!? ぢょーだんぢゃねーですよ! あ、すみません! すみませんですよ! で、でもでも……自分わ嫌ですよ! あ、ごめんなさい。ごめんなさいですよ!」


 怒ったと思ったら、泣きべそかいて頭をペコペコする。と思ったらまた怒って反論をする……を繰り返すリライ。


 コレは……


「ググリ先生……か?」


「はいですよ……」


 そう。コレはリライの頭がおかしくなったワケではない。


 どこから説明すればいいかな。


 まず、リライは死後の世界とやらからやってきた執行者とかいう存在だ。


 しかし彼女は他の執行者と比べて奇異な存在らしく、こっちの世界で暮らすにあたっての知識の刷り込みが不完全で、所々穴があるらしい。


 その為、妙に常識知らずだと思いきや、饒舌に小難しいことをペラペラ喋ったりもする困ったところがある。


 そんな彼女をサポートするのが、彼女の上司であるググリ先生だ(俺が名づけた)。リライが分からないことや対処しきれないできごとに遭遇した時は、ソレに語り掛け、情報を引き出すらしい。


 ググリ先生については謎だらけだ。


 男か女かも分からないし、そもそも性別なんてモノがあるのかも分からない。


 リライに聞いても知らないって教えてくれないし。


 分かってるのはリライに情報を教えてくれる便利な存在であることと、リライはググリ先生に頭が上がらないらしい、ということくらいだ。あ、あと何故か関西弁。


「で、何だって?」


「いーたくねーです……ひゃ! うぅ……ごめんなさいですよ……でも自分わ反対ですよ! げ、現場の判断ってヤツで……ひ、ひつよーねーと思うですよ……あ」


「……ん?」


「そ、ソレわカンベンですよ! せめてたまごかけご飯を食ってから――」


 リライがそこまで言った時だった。


 いきなり彼女が雷に打たれたように身体を震わせ、がく、とうなだれた。まるで糸を切られた操り人形だ。


「……リライ?」


「…………」


 怪訝に思った俺は呼び掛けてみたが、リライは返事をしない。


 ピクリとも動かない。


「お、おい……リライ?」


 いよいよ心配になった俺は、リライのすぐそばに寄って彼女の肩を揺すった。


「り、リライ……? リライ!」


 肩を揺すって呼び掛けても、彼女は力なく目を閉じ、頭を揺らすだけだ。


「な、何なんだ!? どうしたってんだ!?」


 突然のできごとに俺が小パニック状態に陥っていると、


「……ん」


 リライがゆっくりとその目を開けた。


「リライ?」


 とりあえず俺は胸を撫で下ろした。が、目を開けた当のリライは、キョロキョロと部屋を見渡したあと、自分の手を開いたり閉じたりを繰り返し、ソレをじっと眺めていた。


「おい、どうしたんだリライ?」


「……アキーロぉ」


 妙に艶っぽい声色でそう言ったリライが、俺の首に両手を回し、碧眼を潤ませながら熱っぽい視線を送ってくる。


「は!? な、何だ……? どっか具合悪いのか? 大丈夫か!?」


「アキーロ……そんなにあの女が好きなの……?」


「え?」


「リライとどっちが好き……?」


「ええ!?」


「リライは……こんなにアキーロのことが……好きなのに」


「ええぇ!?」


 何だ!? 一体何が起こってるんだ!?


 予想外の事態に、俺の頭はオーバーヒート寸前だった。


 いつもの羞恥心の欠片も持ち合わせていない姿とは打って変わっての、その妖艶な瞳と口調に、俺は不覚にもリライごときにドキドキしてしまった。


 普段のこいつを知っているのなら、コレはあり得ない事態だ。


 真面目に救急車を呼ぶべきかもしれない。


「ねえ、答えて……あの娘とリライ、どっちがかわいい?」


「うええ?」


 どっちも同じ顔じゃないか! ああでも、今のリライはいつものアホ娘に比べると……


「ねえ、あの娘とあたし……どっちが好き?」


「……?」


 何か今……違和感があったぞ。


 いや、さっきから違和感だらけなんだけど、今のは一際不自然なのが顕著だった。


「……『あたし』?」


「……あ」


 そう、リライが自分のことをあたしなんて呼ぶのは聞いたことがない。めちゃ不自然だ。


「……お前、誰だ?」


「……く、くくく……」


 今度は何だ? 俯いたリライが肩を震わせ、唇を歪ませている。


「なーっはっはっはっは! もうあかん! 限界や!」


「……ええぇぇ?」


 今度はいきなり大爆笑を始めたリライが、俺の肩をバンバン叩きながら関西弁を使う。


「……あ」


 関西弁、と言えば――


「――あんた、まさかググリ先生か!?」


「はーいだいせーかーい! お初にお目にかかりやす。いつも部下がお世話になってます。あたしがググリ先生。あの子の上司や。よろしゅうに。プリチーな名前つけてくれておおきに!」


 そう言ってさらに俺の肩をバンバン叩きながら嬉しそうに声を上げるリライ……じゃない。ググリ先生……なのか? が、元気に頭を下げる。


「り、リライは……?」


 そう。目の前のこの少女の中身はググリ先生。謎が解けたのと同時に新たな疑問が生まれた。


 ソレは、リライはどこに行ってしまったのだ、ということだ。


「あ、あの子なら心配いらんで。ちーっとワガママゆーたモンやから入れ替わったっただけや。今はあたしん頭ん中で『ウニャ~! たまごかけご飯~!』って泣きべそかいて駄々こねとる」


「は、はあ……」


 ……リライ。この期に及んで食欲なのか。お兄ちゃんはちょっと恥ずかしいぞ。


「しっかしさっきの反応はオモロかったなぁ。アレがテンパるってヤツやな。そんなに予想外やった? あんた、最初はあの子にイヤラしいことしよ思てたくせに」


 普段のリライは絶対見せない、キッシッシと言った感じの意地悪な笑顔でたまごかけご飯に醤油を加え、俺の箸でかき混ぜる。


 ……間違いないね。コリャ別人だわ。


「つーか、やっぱ知ってるんスね……」


「ソラいつも覗いてるワケやないけど、トーゼンやん。いくらあたしが多忙な上にメンドくさがりでいー加減でも、初仕事ん時くらいちゃんと見とるわ。自分、最初あの子押し倒したモンなぁ。そんで股間蹴り上げられて……あーっはっは! ホント笑わせてもろたで! 最高や!」


「はあ……」


 掻き込んでいた途中で爆笑されたので、俺はご飯粒の散弾砲を顔面に浴びた。


 ……よく喋んな。この人。


 しかし声はリライのままなのに、口調とペースが全然違う。


「でも自分、あのままあの子にいやらしーことしてたら、即座に死後の世界に連行されてたで」


「ええっ!? マジで!?」


「マジ。一発アウトっちゅーヤツや。何も知らん無垢な娘を手篭めにしたらソラ重罪やろ。罪人がゴネて逆ギレした時の為に敢えてそーさせたんやけど。あたしんアイデアや。名案やろ?」


 な、何て迷惑なアイディアなんだ……。俺はあの時死線を彷徨ってたってのか。


「で、でも……リライは、初体験させてくれるって……」


「アレはあたしも驚いたわ。まさかあんなこと言い出すなんて。止めよ思たけど、まぁオモロそーやし、ちょっと様子見よ思て捨て置いたワケやね」


 ……この人の気まぐれがなかったら俺は既に亡き者だったワケか……。冷や汗が出てきた。


「あのまひるたらゆー娘を助けに行った時も見てたで。あん時もあんたボコボコにされて死にかかってたなぁ。そのせーでこの子から送られてきたレポートが雑でしゃーなかったわ」


「え、なんで?」


「前半のほとんどがまひるたらゆー娘の悪口やったね。『なんでアキーロがここまでしなきゃならねーのか分からねーです』て。嫉妬を覚えるなんて、すっかり女にされてもーて、まあ」


「…………」


「……安心し。最後は『まひるわ思ったほど悪いヤツぢゃねーみてーです。キャッチボール教えてくれました。文句ばっか言ってごめんなさいですよ』ってなっとったで」


「……そっか」


「ぬふふ、嬉しそうな顔してからに。ホンマあんたはこの子を人間として育てよ思てるんやね」


 む、俺は知らない内にニヤついていたのだろうか? いかんいかん。


「ごほん……で、今回は一体どうして……?」


 俺の質問にググリ先生は思い出したようにポンと手を打つ。


「あぁ、また気まぐれや。あのアルテマゆー子もこの子と同じで貴重なケースなんやけど……。あの子に興味あるんやろ? あの子も何かあんたに興味持っとるみたいやしな。前にいきなり同調に割り込んできた思たら、手ぇ貸した上に無事に送り返してくれたくらいなんやし」


「……貴重なケース? リライが?」


「あー……あかん。口が滑ったわ。聞かんかったことにしてや」


「てか、同調に割り込んだ? アルルが?」


「せやで。自分、あの子に噛みつかれたやろ。あの時、あの子もあんたと同調してたんやで」


「……はぇ?」


「ちょっとの間、痛みを感じんよーになっとったやろ? アレあの子のおかげやで」


「そ、そうだったのか。……でもなんであいつ、俺に協力してくれたんだ?」


「ソレを調べに行って欲しいんよ。ソレに、またあんたと関わらせてみたらオモロいかな思て。あんたも、あの子と仲良ぉなったら今後やりやすいやろ?」


 オモロい……ねえ。嫌な予感しかしないけど。


 結果として俺の直感は正しかったのだろう。


 結果的には何もなかったからいいモノの、あの時救済人である俺が得体の知れない監視者に同調されていたのに、こいつらは何も対抗処置を施さず様子を見ていることを選んだような連中なのだから……と俺が気づくに至るのは、もう少しあとになってからなのだが。


「いや……別に」


「またそーやって興味ないフリする。ホンマは興味津々なくせしてぇ。いけずぅ。ま、ええわ。とにかくまたテケトーな時間にあんた送るから、帰りはまたあの子に送ってもらいや」


「ええ? いや別に興味津々じゃ……」


 メンドーなことになったと、俺が断ろうかと思ったその時、


「あぁ、やかまし! あたしがそー決めたんや! 上司の決定や!」


 いきなりググリ先生が怒鳴りだした。


「な、何?」


「あ、いやあんたにゆーたワケちゃうよ。あの子が『ぢょーだんぢゃねーですよ! またあの女に粘膜奪わせるつもりですか!』てうるさいからなぁ」


 ……うええ、筒抜けなのかよ。


 一難去らずにまた一難だ。


 そうなのではないかと警戒しておいてよかった。


 コレでアルルに会いに行くのに乗り気な姿勢を見せていたらと思うと……。


「……あ、えーこと思いついた。この子を返して欲しかったら、あたしのヨーキューを受け入れてもらおか。う~ん。やっぱ天才やな、あたし」


 何てはた迷惑な女だ。てかそもそも本当に女なのか?


「ググリ先生、女の人だったんだな」


「せやで。知らんかった? 死後の世界のアイドルやで。求婚者があとを絶たんわ」


 ……コレは嘘だな。根拠はないが。実はセクハラ好きの迷惑なおっさんなんじゃねーのか?


「ググリ先生関西人だったの?」


「何や! どーせエセ関西弁や! 文句あるかい!」


 ……突然キレ出した。


 どうやら触れてはいけないゾーンだったらしい。


「あたしメッチャ人間に興味あってな。特に日本の男はオモロい。えらく自虐的なのと特殊な性欲がやたら強いのとアホみたいな想像力が実に興味深い思てな。連中の観察がマイブームや」


「はあ……」


「特に自分はその中でもMVPや。マイフェバリットやで」


「はあぁ……」


 ニタニタと笑いながら言うググリ先生。


 食べながら喋るな、箸で人を指すな、とリライなら言ってやるのだが。


 もっともあいつはまだ箸が使えないからスプーンかフォークだけど。


「ま、あたしの話はともかく、チャチャっと行ってもらおか、この子の身体と引き換えや」


「……なーんで俺があんたの気まぐれにつき合わなきゃならんのですか。拒否します」


「えぇ~? ここで主人公やったら迷わず首を縦に振るモンやろ。萎えるわ~」


「最近の主人公はそうでもないんだよ。無気力で自堕落なのに何故か周りがついてくるんだ。てか、何だよ主人公って」


「自分ゆーてたやん。『自分の人生の主人公は自分だけじゃ~!』って。アレ、ズキューンてきたで。うわ、こいつオモロ……かっこいいって思たわ」


「今オモロいって言いかけただろ!? てかそんな昔の熱血主人公みてーな言い方してねーよ」


「あんなにトキめいたのは『ファッキンジャップくらい分かるよこの野郎』以来や」


「……色んな映画観てんだな」


 マジで帰ってくんないかなこの人。もっと聡明な方をイメージしてたよ。


「……あ! じゃあコレはあたしからの試練やと思い。こー見えてあたしはこの子を自分の娘みたいに思とる。で、軟弱者に娘を預けるワケにはあかんからなぁ。あんたがこの子を育てるに真に相応しいか、あたしに証明してみい!」


「あんた今思いついただろ! 『……あ!』って言ってたぞ! てか娘を押しつけたんなら食費くらいよこせ!」


「よーし交渉成立や。あんたが見事アルテマを口説き落として男を見せたらこの子と食費はプレゼントしたる。へたれっぷりを見せてくれたらあたしは腹を抱えて笑ったる」


「どこに成立の要素があった!? あんたむしろ後者が見たいだけだろ! ヒマ人か!」


「オージョーギワが悪いで。腹括り。さあ、旅立ちの時や」


 ググリ先生が俺の膝の上に乗ってくる。しまった。反応が遅れて逃げられなかった。


「勝手に決めんなよ! あとご馳走様くらい言え!」


「テレんでええて。あたしとチューしたくらいじゃ多分あの子も怒らんて。むしろ怒ってくれた方があたしとしてはおいしいし」


「だから嫌なんだよ! 他に方法ないのかよ?」


「ふふ……ホンマあの子のこと大切に思てくれてるんやね。でもコレは避けては通れぬ道や」


 そう言ってググリ先生がまたも俺の首に両腕を回し、上目遣いでこちらを覗き込んでくる。


「……ん」


 そして、少し気恥ずかしそうに咳払いをして、彼女は芝居がかった動作で目を閉じる。


「アキーロ……きて」


「シナを作るなぁぁああっ!! 何かワザとらしくてすっげーむかつく!」


「何や注文多いなぁ。テレとんの? コレだから童貞は……」


 言い掛かりだ。もう萎え萎えだぜ。


「てかあの子が頭の中でメッチャやかましいから、はよしてや」


 ……益々嫌になってきたぞ。あとが怖すぎる。


「あ、あとあんたが向こう行っとる間、漫画とかゲームとか楽しませてや」


「おいおい! サポートしてくんねーのかよ!? さてはあんた最初からソレが目当てだな!」


「ふふん、あたしくらいになるとあんたの情報を送信しながら自分もこっちの時間も好きに動かせるんよ」


「だからそういう話じゃ――」


「隙ありゃぁぁああっ!!」


 俺の言葉を不意打ちの唇が遮る。


 たまごかけご飯の匂いがした! 最悪だ。


 しまった避けられなかった! てかコレって一種のレイプだろ!


 まるで煮え湯を飲まされたような気分を俺が噛み締めていると、あぁちくしょう。いつものブラックアウトが襲ってきた。

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