川沿いの通り道で

嬌乃湾子

−1  ムギの語り

私の名前はムギ。16才になる。毎日学校へは行くけど、苦手なものが多くて困っている。勉強は苦手で、愛想も悪くて不器用。本当は普通に楽しく学校へ行きたいんだけど、それとは別に、私の気持ちはずっと晴れないで困っている。


それは前に飼っていた犬が原因で、その、ちょっとさかのぼる話をする。


私がまだ幼かった頃だった。お父さんが知り合いに犬を譲ってくれる人がいるという話をした。お父さんはちゃんと面倒見るなら飼うけどムギ、可愛がるか?と聞かれ欲しい!絶対可愛がって面倒見る!と頼んだ。


数日後、我が家に子犬がやって来た。名前をアクスと名付け、私はアクスを可愛がった。アクスを散歩に連れて行ったり、餌をやったり、そんなときアクスは笑うように全身で喜びを表現して。それを見て私も嬉しかった。


アクスは時々寂しがって外に置いてある犬小屋から家の中へ入りたがったり、毎日郵便屋さんがバイクでやって来てポストに郵便物を入れようとする度に、不審者が来たのだと思い込み郵便屋さんに何度も吠えたりと、ちょっと困った事もあったけどそれでもアクスとの日々は毎日が楽しく、私はアクスとともに成長していった。


でも、家は自営業で親も忙しく、時々構ってやれない時もあった。当時はうちにはネットとかスマホも無くて、どうしていいのか解らない事も時々あった。アクスには何度言っても伝わらない事やアクスにしか解らない苦しみもあったと思う。



そうして、時は過ぎていく。


数年過ぎたある日、アクスは病気になり犬小屋の中で寝る事が多くなった。動物病院にお父さんは定期的に連れて行くけれど、アクスはとうとう寝たきりになってしまった。それでも郵便屋さんのバイクの音が聞こえると寝たままウーゥウーウー!と唸る。アクスは動けなくても、私や家族を守ろうとしていた。




ある星の降るような冬の冷たい夜の日、部屋にいると外の犬小屋からアクスが吠える声が聞こえた。私を呼んだんだと思いアクスの小屋に飛んで行くと、アクスはやって来た私を微笑むように見つめた。おやすみ、アクス。そう言って私は自分の部屋に戻る。

そして次の日、アクスは天に逝った。




あれから三ヶ月程経つ。今思うと、もっとああすれば、こうすればという後悔しかない。いろんな意味で無知というのは本当に嫌だ、とアクスの事を考えると未だに悲しくなってくる。



家族はもう普通に生活しているけど私は毎日心が重いまま学校に通っていた。かと言って、楽しくおしゃべりしている他のみんなが羨ましく思ってしまう。噂したり買い物や食事、海外旅行に行った話。何よ、自慢?上位に立ってマウント立ちたいの?。キラキラしてさ。私はただ、普通に学校行って苦手な勉強習いに通うだけの日々だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る