犯人:1件目の犯行の途中

 おい? どうなってる? 絶対におかしいだろ。

 何で、こんだけ刺してるのに、死なねぇんだ?

 子供の頃からの夢だったシリアル・キラーへの第一歩を踏み出す記念すべき最初の殺人に……こんなに手間取ったなんて知れたら……俺は笑い物だ。

 自分より体重が10kg以上は軽い女を殺そうとしたら、あっさり反撃された。

 俺の体が血まみれになってるのは判るが……その血が、この女の爪で皮や肉を抉られた結果の血なのか、それとも、こいつを何度も刺した返り血なのか、俺にも判らない。

 恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。

 もし、台所に有った包丁を先に手にしていたのが、この女だったら、逆に俺が死んでたかも知れない。……って「逆に」も何も、この女、まだ息が有る。

「ただいま〜」

 その時、玄関から別の女の声。

「お姉ちゃん。ちゃんと鍵かけときなよ」

 あ〜、マズい。

 だ……だめだ……。どうすりゃいいんだ? 1人目を殺し終えてない内から、もう、バテかけてる……。

 2人目を殺す体力なんてねぇよ。

 人殺しって、こんなに疲れるモノなのかよ?

 問題は、それだけじゃねぇ。この、しっちゃかめっちゃかな状況を見られた挙句、誰かにバラされたら……俺のシリアル・キラーとしての経歴に大きな傷が付く。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け……落ち着け。

 気持ちを切り替えよう。

 ……。

 …………。

 ……………………。


 俺が最初の仕事を終えた直後、部屋に1人の女が入って来て、悲鳴をあげた。

 少し困った事になった。

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