偽彼氏はナンパを断る理由になるか

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玄狼が福田先輩ありさと瀬戸芸に出掛けていたその日、志津果と亜香梨は鷹松市街へショッピングに来ていた。


鷹松市の商店街は昔の城下町がそのまま発展して出来たもので中でも商店街アーケードは総延長約2.7kmあり長さだけなら日本最長であるらしい。そして七つのアーケードを中心に小さな商店街通りが碁盤の目のように存在する。

近年のゆ〇タウンやイオ〇といった大型商業施設の開店によってかなり寂れた状態になった通りも少なからずあるがそれでも中心となるM通り辺りは賑やかだ。



「志津果、それ買うん?」


「え、う…うん、いや・・どうしょうかなと思うて・・・・」



今、志津果が手に取って眺めているのは薄青色ペールブルーのプリーツスカートである。亜香梨が意外に思ったのはそれがミニスカートであることだった。学校の制服を別にすれば志津果は滅多にスカートを穿かない。普段のボトムスはショートパンツかハーフパンツが殆どだ。


” スカートっちゃ何かヒラヒラして頼りなくて嫌なんよな。ちょっと激しく動くとその・・見えそうやし・・・

男子のエッチな好奇心を刺激して気を惹こうとするあざとさを感じるきんあんまり好っきゃないんやけど。” 


そう言っていた筈の彼女しづかがそのあざとさの真骨頂とも言えるミニスカートの購入を思案している事に違和感を持った亜香梨は思わず訊ねた。



「志津果はスカート嫌いや言うとったやん?

そやのにミニを買うっちゃどして?(買うなんてどうして?)」


「そ、そらウチやってミニスカートぐらい買うわ。もう中学生なんやから・・・」


「そらまぁ、そういうたらそうやけど・・・えらい急に変わったやん。

ひょっとして誰かその綺麗な足を見せて気を惹きたい人でも出来たん?」



志津果は中学入学後、周囲の期待と予想を裏切って陸上部に入部しなかった。全国レベルでの上位クラスを狙える身体能力を持ちながらそれらをアッサリと捨てて文化系のクラブを選択した。

その理由は ” フェリーの時間があるので部活動に制限があって集中した練習が出来ないから " というものであった。


そのため夏の頃は程よく小麦色に焼けていた志津果の肌は今では生まれつきの無垢な白さに戻っている。

しかし真言宗禅通寺派の裏天部、” 独鈷衆 ”の幹部である父親の指導による鍛錬で彼女の身体の柔軟性や筋力は以前より更に磨き抜かれたものとなっていた。


当然、それは外見においてもそれなりの変化を与えていた。今まで少年のそれと見紛えるようであった青臭い堅さを持った手足は年頃の少女らしい丸みを帯びながらもキュッと引き締まった強靭さと滑らかさを併せ持ったものに進化していた。


先程、亜香梨の言った綺麗な足とは志津果の制服スカートの裾下から覗くほっそりとしたそれでいてみっちりとした弾力感を備えた足の事だった。乳脂を薄く刷いたような白い肌が紺色のスカートに眩しく映えている。



「何を言よんな! 気を惹きたいやの思う様な人や・・・・・・・・・居らんわ。」



『ほぉ・・・ほんなら今の間は何なんよ?』と思った亜香梨がさらに突っ込もうとしたその時だった。



「なア、あんたら一年生やろ? 何処の中学?」



気安そうな、それでいて何処かじっとりとしたものを含んだ声が聞こえた。

志津果は顔の向きはそのままにして声のした方に視線だけを向けた。


一メートル足らず程離れたそこには二人の少年達が立っていた。中学生もしくは高校生だろうか? 私服姿なので年齢ははっきりしないがそんな辺りだろう。

派手な原色のロゴをあしらったカラーシャツの下から暗色系のインナーシャツが覗いていた。両サイドを短く刈り上げた頭の頂には金色のメッシュを入れた髪が逆立っている。

こんな頭でよく学校から注意を受けないものだと不思議に思うような髪形だった。



「二人ともあんまり見掛けん顔やけどメッチャ可愛いやん! 

なぁ、良かったらこの後、俺らとちょっとお茶でも飲まん?」



志津果はチラリと自分の隣の少女の顔を見やるとハァ~~と溜息をついてげんなりした顔つきになった。見知らぬ男子から声を掛けられて誘われる、所謂ナンパをされたのは今日、市街に来てから既に三度目だった。


最初は、学生服を着た普通の中学生数人、二回目は遊び馴れた感じの私服の男子達、そして現在進行形中のヤンキーっぽい不良感丸出しの二人組である。

一回目と二回目はともに少女達がやんわりとした断りを数回繰り返すと諦めて去って行った。だが今回の少年達はそれとは違いしつこかった。



「すみませんけどそう言うの結構です。」


「そなん言わんと。(そう言わずに。)

ちょっと一緒にお茶するだけやん。勘定は全部俺らが持つし。」


「私等、家が遠いし早よ帰らないかんから時間ないんです。」


「未だ午前中やん。家がどっか知らんけどお昼過ぎてからでも充分帰れるやろ。

なんやったらランチ食べに行こや。美味しいレストラン知っとるけん。」


「そやで。ちょっと一緒に付きおうてくれたらそんでかまんきに。別におかし気な事やかなんちゃせえへんて。おそなるんが心配やったら俺等がバイクで送ったげるで。」



自動二輪の免許が取得できる十六歳以上なのかどうかも分からない見知らぬ男子にバイクで送ると言われても付いて行く女子などいるだろうか、と志津果は思った。

確かに色鮮やかなライダースーツに身を固め風を切って颯爽と走るバイカー達の姿をカッコいいなと感じる事はあるが無免許運転のバイクに制服姿で二ケツタンデムする度胸など自分にはない。


真面まともな女子中学生なら誰でもそうだろう。そんな事も分からずにしつこく食い下がるヤンキーっぽい二人組は恐らく髪型同様にオツムの方も普通ではないようだった。



「亜香梨、もう行こ!」



これは話が通じない相手だと考えた彼女しづかは手にしていたアイテムを近くの棚にポンと放り投げた。そしてクルリと身を翻すと亜香梨の手を引いて二人組を置き去りにしたまま駆けだした。

店の入り口を飛び出すとそのまま後ろも見ずに走り続ける。店の前はあまり人通りの多くない通りだ。真っ直ぐに走ったのではすぐに見つかってしまうかもしれない。

二人は通りに面した細い脇道に飛び込むと後は右に左にと狭い路地裏を闇雲に走り回った。



「ふぅーー、 ここまで来たらもうどこに居るんか分からへんやろ。」


「そやろな。ついでにうちら自身もどこに居るんか分からんけどな。」



スカートの裾から覗く丸っとした可愛らしい膝小僧に手を突いて亜香梨はハァ、ハァと肩で息をしながら答えた。



「しゃあないやん。あんな奴ら相手にしとったら鬱陶しいだけやし。うち一人やったら最悪、二人ともぶっとばして終わりにするとこやけんど・・・

亜香梨がおったらそなん危なげな事でけんやん。ほんだけん逃げるしか方法がなかったんよ。」


「ハァッ! ウチが居らなんだら腕力で断るつもりやったん?

しづかは荒っぽすぎるわ・・・相手が大人数やったらどよんすんな?」


「あんなぐらいの奴らやったら何人おっても関係ないわ。手に余るようやったら法具も使うし。」



亜香梨は法具っちゃ何なん? と訊こうとしてやめた。どうせ碌なもんではないと思ったからだ。

半年ほど前に、不良集団の ”蛇悪暴威主ダークボーイズ” に捕まって凌辱されかけた事件から後、志津果は少し変わった。放課後は学校に残ろうとせずにさっさと家に帰り週末もあまり遊ぼうとしなかった。   ※ 第27話【 鬼の式神 】参照


後から聞いた話ではどうやら護身術の鐘林寺拳法や独鈷衆の修業に打ち込んでいたらしい。そして今現在、中学生となった彼女は半年前と比べると身体も大きくなり肉付きも良くなった。


亜香梨とほほ同等だった筈の身長も数センチ以上伸びて向かい合うと明らかに目線が上になったのがわかる。手足も女の子らしい滑らかさを帯びながらパンプアップしたかのようなみっしりとした質感を持ったものに変わった。


今や志津果は人目を引くほどの美少女であるにもかかわらずその身体から静かに滲み出る透き通った威圧感らしき物さえ漂わせていた。

亜香梨はこの娘なら冗談抜きで多人数の男子相手にでも対等に戦えるんじゃないかと思った。



「それとも亜香梨はあんな連中と食事したかったん? お金ははろてくれる言うとったけど。」


「アホなこと言わんといてつか!(言わないで頂戴!) ウチこれでも彼氏持ちやし。それやったら割り勘でもええけん彼氏と行くわ。」


「・・・・彼氏? それってもしかして玄狼の事をよん?」


「うん、勿論。」


「それって二年の先輩女子を欺くための嘘の話やろ? ほら、確か福田 安里紗とかいう女子ひと。」


「ソッ。その福田先輩からのちょっかいを躱すための作り話や。この前に浦島さんを交えて説明したやん。」


「いや、それは聞いたけんど・・・玄狼は彼氏言うても偽彼氏やん。」


「ええやん。偽でも何でも彼氏は彼氏やし。それにたまにはデートや食事もせんかったらウソやってばれてしまうからそうしょうていう事になっとるし。」


「・・・・・・・・」



志津果はそれを聞くと黙り込んで不機嫌そうな表情でじっと亜香梨の方を見た。


『アハ、怒っとる、怒っとる(笑)! しづかはホンマに分かりやすいわ。

面白おもっしょいきんもちょっと手ごてみよか。(もう少しからかってみようか。)』


内心でクツクツと笑いを噛み殺しながらそう思った亜香梨だったが次に志津果の放った思わぬ言葉に面白がっていた気分がスゥーッと消えた。



「そんなん止めとった方がええんと違うん? どうせ偽の彼氏なんやし・・・

亜香梨が良うても玄狼は迷惑かもしれんやん。」


「なんて! なんで玄狼君が迷惑なんよ! 元々、向こうから頼まれた話やし二人で話をして決めた事やきんそなんわけないやん。

それにニセ、ニセて言いよるけんどひょっとしたらこの先、ホンマにそうなるかもしれんやん!」



むっとした勢いで亜香梨は怒鳴る様に言い返してしまった。

実際の話、どうせ恋人同士の振りをするのであればバレない様にそれらしい行動をしようと二人で決めたのは事実だ。例え若と呼ばれる玄狼の対として姫と呼ばれる志津果であろうと文句を言われる筋合いはない。


最も将来、本当の恋人同士になる可能性うんぬんは自分でも思いがけずに出た言葉だった。何故そんなことを口走ったのかは分からない。只、そこには長年の親友に対し怒鳴ってしまった苦い後悔と同時に奇妙な解放感があった。


二人の間に気まずい雰囲気が流れ始めた時、彼らはやって来た。



「ハッ やっと見つけたで。こなんとこに居ったんか。サユリ達を通りの周りに張り込ましといて正解やったの。」



そこには先程、少女達が振り切って逃げたあのヤンキーっぽい二人組とガラの悪そうな男女数名が狭い路地裏を塞ぐように立っていた。






※ この後の志津果と不良達とのバトル模様を描くつもりでしたがそうすると

  長くなりそうなのでここで一旦切ることにします。







 

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