第3話 投獄

 白髪頭に王冠を被ったポッコリ腹の国王が、オレを真っ直ぐ指差して叫んだ。


「――その無礼者を、捕らえよ!」



 『希望の光』のメンバーが、オレを庇うように前後左右に立った。近衛兵たちは剣を抜いて、ぐるりとオレ達を囲む。



「冒険者たちよ、国王陛下にありがたくも爵位を賜った大恩ある臣下の身で、反逆するつもりか!」


 事の成り行きを見て、焦った将軍が叫んだ。


「作戦失敗に加え、『希望の光』を、ダンジョンから救出したという功績が、ここで面倒を起こされてはパーになってしまうではないかっ」


 心の声が呟きになって、この場に居る全員に丸聞こえだ。



「やぁ、まいったな~」


 あまり困ってなさそうな感じで、暗殺者アサシンジョイスが小声でオレに話しかける。


「ディーン君が今から、ごめんなさいって言っても、許してもらえないかな~」


「オレは……」


「あはは。けど、俺達も連帯責任みたい」


「なんで? オレと『希望の光』は関係ないのに……」


 賢者や騎士、魔法剣士、聖女は周囲をするどく観察しながら、仲間内で視線を交わし、こうなったら強行突破で脱出するか? と目で合図し合った。すると、その時。



「お待ちください! この少年は山奥から出て来た田舎者でして、国王陛下のご尊顔を前にして、緊張のあまり動けなくなったのでございます! まだ年若き少年であれば、どうか寛大な処置をっ」


 ギルドマスターのゴードンが、両手を上げて芝居がかった様子で、国王の慈悲を乞うた。


 事の成り行きを見ていた宰相が、素早く王に耳打ちした。


「陛下、Sランクパーティは我が国の大事な戦力。ここは寛容さをお見せになり、恩を売ってはいかがでしょうか」


「そういうことであれば、その少年に特別恩赦を与えよう。王に対する不敬罪は斬首だが、30日間の王国への奉仕活動を命じる」


 国王の言葉に、人々がほっと息をつき、緊張が解けた。


 この謁見室に案内してくれた騎士見習いの若者が「こちらに」とオレの手を引いた。


 師匠を見ると、頷いた。そのまま行けという事だ。オレは若者について、謁見室を出た。


 

「どこに行くんだよ?」


 廊下をかなり歩いて、分厚い木と鉄で出来た小さな扉を潜り抜ける。それから階段をひたすら降りていく。薄暗くなって、カビ臭いにおいがしてきた。天井の低い狭い廊下をさらに進むと、突き当りに金属の扉があった。


「ここです」


 若者は、ギィィと扉を開けると、ドン!とオレの背中を突き飛ばし、バタンと外から閉めた。ガチャッという音がして、コツコツと足音が遠ざかる。


 そこは本当に狭い部屋だった。天井は手を伸ばせば届くし、横になって寝るにも足を延ばせば壁に付く。小さな明り取りの窓には鉄格子がはまっていて、ジャンプして覗くと目線の上が地面になっていた。


 扉には鍵かかけられていて、開けることが出来ない。


「――ここってもしかして、独房?」


 もしかしなくても、地下牢かも! トイレもベットもないし、どうすんだ、これ。


 ……なーんてね。いざという時の為に、服の下に魔法の鞄をたすき掛けにしておいて良かった! 必要なものはここから色々出せるし、大事なタブレットも入っている。


 魔法の鞄は、土中蟲アースワームの胃の特殊部位を使った魔道具で、小さな袋に大容量を納めることが出来るんだ。気を付けなくちゃいけないのは、この鞄を破いたりして壊すと、中身が全部外に出てしまうこと。こんな狭い部屋で鞄を壊したら、押しつぶされちゃうかもね?


 鞄から長椅子と毛布を出して、寝ることにした。相手の出方を確認してから、行動しても遅くないだろう。果報は寝て待てっていうし。


 すぅ、すやぁ――。


 どれくらい時間たったのか、目を醒ますと日が暮れたのか、真っ暗だった。寝ぼけていて、しばらく、なんで自分がここに居るのか分からなくて、徐々に思い出していく。


 灯りを付けようかな、と思っていると、誰かの足音が聞こえた。段々こちらに近づいて来る。


 カタン。扉につけられてる小窓が開いた。魔道ランタンを小窓に近づけて、こちらを誰かが覗いている。


「……長椅子なんか、ここにあったか? まあ、いい。出ろ!」


 さっきの騎士見習いの声だ。鍵を外す音がして、扉が開けられた。オレは長椅子と毛布を鞄に片づけて、独房の外に出た。


 廊下にはランタンを持った見習い騎士と、ランスロット他数人の聖騎士達が居た。


「マーク、ご苦労だった。後は、こちらでやる」


「はい、閣下」


 ランスロットはオレを見て「ついて来て欲しい」と言って歩き出す。


 聖騎士たちに挟まれるようにして地下通路を進んだ。幾つも扉を潜り抜け、階段を降りる。灯かりライトの光魔法で照らされた通路は、普段は使われていない様子で、埃とカビ臭かった。


「いったい、どこに行くんだ?」


 チラリとオレを見てランスロットは「大聖堂だよ」と答えた。


「大聖堂? 何故?」


「君に色々、聞きたいことがあってね」


 オレは足を止めた。必然的に、彼らも立ち止まった。


「いやだ、と言ったら?」


「――驚いた、ね。君はいったい何者なんだい? 謁見の間で王に跪かず、ここで私達に囲まれても、怯えたりもしない」


「オレはアールの弟子だ。師匠たちはどうしている?」


「『希望の光』なら、城に留まっているよ」


「なら、オレも城に戻る」


 踵を返して戻ろうとすると、シュッと剣を抜く音がした。次の瞬間、剣の切っ先をのど元に突き付けられる。他の聖騎士達も、剣の柄を握っていて、いつでも抜刀できるよう構えている。


「多勢に無勢だ。君が優れた魔法の使い手だったとしても、詠唱が終わる前に串刺しになる。大人しく来てもらおう」


「……じゃあ、これならどうだっ!」


 通路の煉瓦の壁を、両手でドンと叩いた! 轟音と共に、壁に大きな穴が開き、土埃と共に煉瓦が崩れる。オレはそこから壁の向こうへ飛び出した。


 壁の向こうは下水道だった。水の流れる音が聞こえていたので、そうじゃないかと思っていたんだ。


「おい、待てっ!」


 走って逃げるオレを、聖騎士達が追いかけて来る。



 ええい、こうなったら、計画の前倒しだ。



迷宮創造クリエイト・ダンジョン!!」



 ダンジョンマスターの固有スキル、『迷宮創造』を解放した――!!

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