第12話 仲間になる

 あーあ。


「話を聞こう」なんて、カッコつけて言わなきゃよかったよ~。


 あの後、赤狼人傭兵団団長から、人族の国で、はぐれ赤狼人族が虐げられ迫害されて、どんなに苦労して生き延びて来たのか、という話を聞かされた。


「夢は貯めたお金で牧場を買って、仲間と平和に暮らすことです」


 いい年したガタイのいい赤狼人団長に男泣きされたら、牛の着ぐるみの盗賊たちもミノさんズも、すっかり同情してしまった。


「牧場なら、ここの草原エリアでやればいいんじゃないか?」とまで言い出す始末。


 盗賊たちはこの戦が終わったら、外に出たいって話だったよな。なに、人んちに勝手に勧誘してんだよ。


 まあ、取りあえず討伐軍から、こっちに寝返りたいっていうのはいいとして。


「ダンジョンの、5階層から16階層にかけて散らばっている赤狼人族を、どうやってここに連れて来ようか」


 という相談をしてみる。


「あっ、それなら……」


 団長には指揮官のスキルがあって、その派生スキル「号令」で戦場に限り、離れている仲間の傭兵たちにも作戦命令を伝えることが出来るという。


「じゃあ、上に登る分にはボス戦もしなくていいし、モンスターも24時間経たないと再ポップしないから、3カ所くらいに集まってもらおうか。そこにオレが行って、みんなをここに転移させる」


 っていう提案をしちゃったのは、自分だから文句は言えないけどさ。


 転移するときには、身体の一部に触れていなきゃいけないんだけど、むさ苦しいおっさん狼人族に囲まれて、身体中触られなきゃなんないのは、何の罰ゲームかと……。ぐすん。



 そうして集めた赤狼人族傭兵団たちだったけど――ダンジョン18階層森林エリアで、時ならぬ宴が始まってしまった。



 スッチャラカ、チャン、チャン! スッチャラカ、チャン、チャン!


「ダンジョン音頭で、ヨヨイノヨイ、あ、それ! ヨヨイのヨイ!」



 燃え盛る焚火を囲んで、ミノタウルス、牛の着ぐるみの盗賊、赤狼人族、ゴブリン、オークが輪になって不思議な踊りを踊っている。



「クムラン・ダンジョンに、赤狼人傭兵団が加わった歓迎会ですだ~」


 草原エリアから、ゴブリンとオーク達も酒やつまみの差し入れも運び込まれ、飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。



「あっし達もねぇ、根無し草の傭兵家業は、いつまでもやるもんじゃないって思ってたんすよ~」


 赤狼人族とオークが、仲良く酒を酌み交わす。


「んだんだ。男は可愛い嫁っこもらって、女子供を守ってこそ、生きる張り合いがあるべさぁ」


 嫁の話に、喰いつく赤狼人傭兵。


「そのぅ、あっちの牛の着ぐるみの人から聞いたんっすけど~、ダンジョンでハーフエルフのかわい子ちゃんと合コンしたっていうのは、本当っすか~」


「んだ! ダンジョンマスターのディーンさまが、合コンセッティングしてくれたべさぁ」


「ひぃぃぃ、うらやましぃっすねぇぇぇ。俺たちもぜひお願いしたいっす~」

 



 ――今は戦時中なのに。こいつら、危機感無さ過ぎだろ……。



 付き合いきれないオレは、マスタールームの1LDKに帰った。



「アーサー」


 癒しが欲しくて、玄関から走って抱きついたら。


「汗臭い。シャワー浴びて来い!」


 うう。これくらいで、めげないぞ。シャワー浴びてサッパリして、リビングに戻る。


「アーサー」


 今度は、いいだろ?


「討伐軍の見張りは、Sランク冒険者たちにも、頼んであるから」


「えっ?! あ、ここで……? ロフトのベットに行こう?」


 慌てるアーサーを、構わずソファベットに押し倒した。


「ディーンてば、戦時中なのに。危機感無さ過ぎだよ……」



 うん、それは、このダンジョンの伝統かも……。アーサーのいい匂いを胸いっぱい吸い込んで、疲れた心と身体を癒してもらった。



 そして、翌朝。赤狼人族に抜けられて、討伐軍が慌てだしている。




 ――さあ、どうする、討伐軍? こっちも相手の出方を見て、次の手を考えなくちゃ、だ。

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