第9話 勝利

「ウォオオオオオオッ!!」


 狂戦士バーサーク化した赤狼人傭兵が、吠えた! 通常とは、比べ物にならないほどの攻撃性をまとっている。


 鬼神と化した傭兵は……敵味方関係なく、大剣クレイモアを振り回し、攻撃し出した!!


「うわぁああああああっ! やめろっ!!」


 赤狼人傭兵が、盾役の騎士に切りかかり、討伐軍パーティは大混乱になった。


 その結果、ミノさんパーティの一方的な攻撃となり、先陣の討伐軍パーティは全滅した。



「「「ヤッター!! 勝ったぞ――!!」」」「「「モォオオオオッ!!」」」


 勝ち鬨を上げるミノさんパーティ。



「おい、お前たち! またすぐ次の討伐パーティがやって来るぞっ。はやく後ろの仲間と交代して備えるんだ!」


 オレはしゃいでる盗賊たちに、マイクとスピーカーで呼びかける。


 ミノさんパーティは5人ずつ3組のローテーションで、しばらく17階層のこの地点で頑張ってもらうつもりだ。




 先発隊が次のパーティと位置を交代するとまもなく、新たな討伐軍パーティがボス部屋から出て来た。


 討伐軍は、前のパーティが入り口に居ないので、警戒しながらゆっくりと階段を降りて来る。


 ミノさんパーティが階段の陰から踊り出て、アーサーの指示通り赤狼人傭兵に、クロスボウの集中攻撃!


 やった! 全矢ヒット!! 最初のターンで 狂戦士バーサーク化したぞっ。


 こうなればもう戦いの流れは、ミノさんパーティのものだ。狂戦士バーサーク化した赤狼人傭兵が敵味方構わず攻撃を始めると、討伐軍パーティはもう連携も何もない。めちゃくちゃだ。


 回復役の僧侶を赤狼人傭兵が大剣クレイモアで突き刺し、即死させてしまうと敵方は絶望し、戦意を喪失した状態であっという間に勝敗がついた。


 その一方、ミノさんパーティは楽に勝利し、怪我も軽傷で済んだ。




「よーし、その調子だ――っ!!」


 バンバンババン!!


 モニターを見ながら応援しているオレは、スティックバルーンを叩いて大盛り上がり。


 そんなオレに、アーサーが水を差す。


「いや、この次が大変だ。ギルドから派遣された忍者と戦士が来る」


 この二人は先陣隊に属しながら3番目のパーティに居て、下の階層には慎重に降りて来るんだよな。


「ミノさんパーティは、正攻法じゃ勝てないかもしれない。こちらは一度撤退、下の階層で待機させて、先陣隊の二つのパーティがやられた状態を把握した上で、討伐軍がどういう判断をするのかみたい」


「ギルドの忍者と戦士が、そのまま先に進んだら、どうすんだ?」


「かなりの確率で、彼らは引き返すと思う。もし進んで来ても、ボクに考えがあるから」


 せっかくいいところなのに……。オレはしぶしぶ撤退命令を出す。


「よーし、お前ら、いったん森林エリアまで退いて、待機だ――!! 弁当を用意してあるから、飯でも食って休んでてくれー。戦いに参加しなかったパーティメンバーは、あとで斥候をやってもらうかもしれないから、酒は飲むなよぉ」


「えっ、もう撤退ですかい? やっと俺達の番が回って来たのに……」


「うん、後でまた活躍してもらうからな!」 




 ギルドのAランク冒険者二人を含むパーティが、ボス部屋から出て来た。これまでのパーティと違い、ガヤガヤと音を立てたりせず、慎重に階段を降りている。


 しかし彼らは、階段から先に行こうとはしなかった。


「先に行ったパーティが一人もいない」


 戦士ドミニクの言葉で、パーティに緊張が走る。


「ドミニク、階段で争った形跡がある」


 忍者ハンゾーが、戦士ドミニクに階段や壁のわずかな傷を指摘していた。



 ダンジョン内では、人やモンスターが生命活動を停止すると、彼らを吸収して痕跡を残さない。


 また、戦闘によって壁や床などが傷ついても自動修復機能によって、元に戻る。


 その完全に元に戻る前の傷を、ハンゾーは見逃さなかった。



「階段は、モンスターが出現しないはずなのに!」


 フレイア教団の修道士が怯えたように、辺りを伺っている。


 スンスン、と鼻を動かしていた赤狼人傭兵は、顔をしかめた。


「血の匂いが空気に残っている。ここで戦闘があったのは間違いないだろう。それに……いや何でもねぇ」


「ちょっと、言いかけて止めないでよ! 気になるでしょ」


 魔法使いの女が、赤狼人傭兵に突っかかるが、肩を竦めて見せただけでそれ以上は何も言わない。


 メンバーの視線が、黒騎士に集まった。


 討伐軍の総指揮を執っているのは、黒騎士団を率いる将軍で、パーティ内でも黒騎士がリーダーになっているのだ。


「ここはいったん上の階層に戻ろう。討伐軍に合流して作戦本部に報告の上、次の指示を待ちたい」


 黒騎士の発言に他のメンバーも頷き、彼らは別ルートで上層への階段を登って行った。


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