第4話 ダンジョン討伐作戦会議
聖都にある王城の一室で、カムランのダンジョン討伐作戦会議が行われていた。
テーブルに着いている面々は、ティンタジェル神聖王国からは禿頭将軍のあだ名で有名なマクブライド卿と宮廷魔術師マーリン、フレイア教団からはエセルバート司教と聖騎士団副団長ランスロット、冒険者ギルドから派遣されたAランク冒険者の戦士ドミニクと忍者ハンゾーの6名だった。
簡単な自己紹介を終えると、スキンヘッドに髭をたくわえた将軍はAランク冒険者の二人をギロリと睨みつけた。
「冒険者ギルドは、Sランクパーティを派遣して失敗に終わったのに、この度の作戦にAランクを寄越すとは、何を考えている」
「閣下のおっしゃることはもっともですが、俺達はダンジョン攻略のアドバイザーとして派遣されたのです。俺もこのハンゾーもカムラン・ダンジョンは以前、何度か探索しているし、他にも数えきれないほど様々なダンジョンを探索した経験があります。俺達でお気に召さないなら、ギルドに他の冒険者とチェンジするよう言ってください。正直に言わせてもらうと、誰も行きたがらないと思いますけど」
「なんだと?! 腰抜けどもめっ」
「まあまあ、マクブライト将軍。今回は神聖王国の軍がダンジョンを制圧するのですから。冒険者たちには罠の発見や攻略の手引きをお願いしましょう」
中年の司教が将軍をなだめ、ランスロットに目くばせした。ランスロットは会議の進行役を買って出た。
「僭越ながら私が、今会議の進行役を務めさせていただきます。最初に作戦の最終目的について。大規模に軍を派遣して、ダンジョンを制圧、ダンジョンマスターを討伐し、聖剣エクスカリバーの回収と勇者の身柄の保護、そして――」
「Sランク冒険者パーティ―の救出もお願いします」
戦士ドミニクが付け加えると、将軍はフン、と鼻を鳴らした。
「わが軍の目的は、聖剣エクスカリバーの奪還だ。他は二の次、三の次よ」
「教団は、勇者の身柄の確保を求めます。アルトリア様は、現教皇聖下の御息女なれば、王国にとっても王族の姫」
エセルバート司教の言葉に、再度鼻を鳴らす将軍。
「教皇さまが教団に献身される前の、王子であった頃に儲けた御息女とはいえ、王家では認知しておらぬ。聖剣を持ち出してダンジョンに逃げ込むとは、とんだはねっかえりよの。重大な国家への反逆だ。素直に投降するならよし、そうでなければその場で切って捨てよ、との陛下のお言葉だ」
「しかし、勇者をここで失うのは得策ではない。次の勇者がもし他国に現れたら、我が国は大損害だ」
宮廷魔術師マーリンが口を挟んだ。
「ではこうしましょう。第一に聖剣の奪還、第二に勇者の身柄確保、第三にSランクパーティの救出。目的がはっきりしたところで、具体的な作戦に移りましょうか」
ニッコリと笑ったランスロットに、一同は渋々頷いた。
「ダンジョン攻略について、冒険者にまず意見を求めます。ドミニク殿、お願いします」
ドミニクは立ち上がって発言した。
「この度は軍の圧倒的な数の利によって、制圧するという作戦ですよね。しかし、ダンジョン内がどのようになっているか、情報が少なすぎる。戻らなかったSランクパーティの前に、調査に行ったCランク冒険者によれば、出現モンスターも変わって、中層では強力な罠が仕掛けられていたと言います」
「強力な罠……?」
将軍がつぶやくと戦士ドミニクは頷いた。
「中堅どころの冒険者が、それまでの功績もすべて投げ打って、転職してしまうほどの衝撃だったとか」
「「「そんな恐ろしい罠があるダンジョンなのか……」」」
「……いや、単純な落とし穴だと思いますがね。まあ、気を付けるに越したことはないでしょう。攻略するにあたって中層は、穴を埋め立てながら進むことになるかも」
「ランスロット殿、まるで最近見て来たような口ぶりだが」
一斉に聖騎士に視線が集まった。
「ええ、まあ。中層までですが。土、木、石のゴーレムに、落とし穴。そこまでは容易いけれど、その先がどうなのか」
「Sランクが戻れなかったのですからね」
冒険者たちはそれを知ってみな、尻込みしている。誰でも命は惜しい。
「あのダンジョンは『死に戻り』ができるだろう?」
クセなのか、髭を引っ張りながら将軍が言うと、戦士ドミニクは頷いた。
「だからSランクパーティも、ダンジョン内で生きている可能性があります。救出後はダンジョンの情報を得られるだけでなく、戦闘に参加することも可能かもしれない。ダンジョン攻略の戦力として彼らの働きも期待できるという事をお心に留めて下さい」
本来はギルド主体で不明のパーティを捜索しなければいけないのに、今回は王国軍に委ねられているのがドミニク達には歯がゆいが、主張すべきことは言っておかないと……。それにこの討伐戦が首尾よく行ってSランクパーティの救出に成功すれば、ドミニクもハンゾーも、Sランクに昇級もしくは、ギルドの役職に就けてもらえると打診があって引き受けたのだった。
「王国軍は500人の編成で討伐に向かう。冒険者の出る幕はないだろう」
「500?!」
ハンゾーが驚きの声を上げた。将軍はダンジョンを侮っている。
「その500人は補給部隊や衛生隊も含まれるのですか?」
「もちろんだ。だか短期決戦ゆえ、さほどの物資も居るまい」
「いや、全然足りません。中層階まで分かっているだけで10階層あります。最下層までその倍の階層があるとして、20階層まで制圧するには1000人は必要では」
「1000だと?! バカを言え」
「モンスターは24時間経つと再ポップします。制圧した階層も見張りの兵が必要ですし」
「24時間以内にダンジョンマスターを討伐すればいい」
ダンジョン攻略にずぶの素人まるだしの将軍の意見に、ドミニクとハンゾーが顔を見合わせた。
「上層階はさほど人員は割かなくてもいいだろうし、魔法部隊も帯同する。怪我人の手当には教団から治癒魔法の練達者の修道士や修道女が同行してくれることになっている」
取りなすように宮廷魔術師が説明する。
「それに、少数精鋭の特殊部隊
厳かに将軍が告げると、会議室はシンと静まりかえった。マクブライド将軍の率いる黒騎士団の切り札
「――なるほど、
一同、王国の本気度を見せられ、得心が行ったのだった。
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