第2話 ダンジョン運営会議

「これより記念すべき第一回、カムラン・ダンジョン運営会議を行います」


 アーサーが会議の開始を告げると、拍手が巻き起こった。


 パチ、パチ。


 ――手を叩いているのは、オレとアーサーの二名だけだけどな。


「進行役と書記は、ボクが務めさせていただきます」


「よろしくお願いします」


「今回の議題は、


一、村里の鬼たちのレベル向上による、ダンジョンモンスターの配置変更について

二、宝箱のアイテムの改善について


……の二つです。ぼったくりダンジョンと評判になることを防ぎ、冒険者ギルドから調査隊第二弾が派遣されることを鑑み、それに間に合うよう手配をしていきたいと思います」


「あのさぁ」


「発言するときは、挙手をお願いいたします」


 オレはしぶしぶ手を上げる。


「はい」


「ディーン、どうぞ」


「二人しかいないんだから、挙手なしで普通にしゃべろうよ……」


「――うん、わかった」



 1LDKのリビングで、オレとアーサーは並んで座り、テーブルの上のタブレットに、ダンジョンマップを表示させた。



「上層の洞窟エリアのモンスター配置を、一新するしかないな」


 村里の鬼たちは、新たな装備とアーサーの訓練しごきによって、強くなった。Cランク冒険者パーティ相手に先制を取れたとはいえ、ゴブリン達が一回の攻撃でパーティを殲滅させるまでになっていたとは、オレもびっくりだった。


「まあ、あのボス戦は麻痺薬やクロスボウ対策されたら、また結果は違ったよね」


 確かに。相手もゴブリンと侮っていただろうし。二回目は、ああうまくはいかないだろうな。


「それでディーンは、新しいモンスターを召喚するDPダンジョンポイント、あるの?」


「うーん。ここんとこ、村里で鬼どもとハーフエルフの娘達との結婚ラッシュで、ご祝儀が嵩んでDPもキツキツなんだ」


「新婚さん達の新居に、台所用品を贈ったり、風呂場に魔道具のシャワー取り付けたりしてあげて、みんなも喜んでたよね」


 喜んでもらったのは、良かったけどな。


「DPがあまり掛からないモンスターというと……」


 タブレットの画面を、召喚可能なモンスターに切り替える。


「うわぁぁああああっ!」


「ちょ、ディーン! 驚かさないでよっ」


 画面に映ったのは、人族の死体に悪霊が取りついた食屍鬼グールやゾンビだった。腐乱した屍肉、ずるりと落ちた眼球、あばら骨が露出した胸……。


「ダメ、オレほんとこういうの、ダメだから……」


「確かに死体は墓地で手に入るし、ここに来て命を落とした冒険者になってもらってもいいし、安上がりだよね……あー、これ結構腐っててもなんとかなるんだぁ」


 だから、止めろってば。ホラーとか苦手なんだよっ。


「じゃあ、ミイラやスケルトンもダメなの?」


 コクコクと頷いた。


吸血鬼ヴァンパイアは?」


 見た目がこわくなければ、アンデットでも平気だけどさ。


「うーん。吸血鬼ヴァンパイアは、すごく高いねぇ」


「むー。なんかないのかなぁ」


 タブレットをタップして、探す。


「あ、ゴーレムは? 土とか石の材料なら、ダンジョンの中にいっぱいあるし」


「それだ! ゴーレムなら食料調達の心配もないっ」


 ぱしっ。思わずアーサーとハイタッチしてしまった。


「じゃあ、あと決めるのは宝箱の中身だけだね!」


「……それだけど、ボクがリストを作ったから見てよ」


 渡されたリストは、武器や防具、探索に使うアイテムなどの実用的なものだった。


「奇をてらわないで、普通に冒険者が欲しいと思うものにした方がいいよ。ディーンが欲しい物じゃなくてさ」


 まぁ、そうなんだけど。なんか、つまんないなぁ……。


「二階層から、ポイズンスライムが出て来るから、セーフエリアに薬草の他、毒消草も植えよう」



 モンスター配置もお宝の中身も、アーサーがほとんど考えて、決めてくれた。これで真っ当なダンジョンに成れたな。よかった、よかった。

 

 ――けどさ。


「なあ、アーサー。なんでそんなに、ここのダンジョンの守備力上げたり、冒険者ギルドの調査に対応しようとしたり、頑張ってくれるわけ?」


 俺の言葉にハッとして、大きな黒い瞳がいっそう見開かれ、うるんだ。そして、膝の上でぎゅっと手を握りしめ、微かに震えている。


 ここはオレのダンジョンなのに、アーサーに色々仕切られるのが面白くなくて。いや、アーサーの言っていることが正しいのは分かっているけど。つい、嫌味っぽくなってしまった。


 それに、まだ 聖剣エクスカリバーのことを聞いてない。今まで、アーサーから話してくれるんじゃないかって、待ってた気持ちもあったんだよ。


「お前が持ってるその聖剣エクスカリバーを、国とフレイア教団が必死で探しているらしいな。いずれここにもやって来るんじゃないのか?」


 あー、もっと別の言い方をすればよかった。これじゃまるで、オレがアーサーに、迷惑だから出て行けって、思ってるみたいじゃん……。


 そんなことないのに。アーサーを邪魔に思ったり、迷惑だなんて、一度だって考えたことなんかないのに。



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