27 蒼穹の魔術師
陽明は慎也が保管庫から持ち出してきた
「(
師匠の体から
だが、そんな分かりやすい結末にはならないだろう。
相手は『
「さて、僕の実力を試したいんだったかな?」
右手で練習用の白いラバーソードを持った慎也は、だらりと体から力を抜く。
「だったら一つ予言をしてあげよう――僕は今から君に一撃を決めてみせる。だから、その動きで判断して欲しい」
「……随分と強気な予言ですね」
「弟子に舐められっ放しというのも具合が悪いから、改めて力の差を刻み込んであげようと思ってね」
「うわー大人げねぇ、本気だよこの人」
ラバーソードを正眼に構えた陽明は思わず頬を引き攣らせた。不敵な笑みを浮べる長身痩躯の優男と対峙しているだけで喉が渇いていく。
「それじゃ、行くよ」
脱力した姿勢の慎也から、淡い緑色の輝きが溢れ出す。
気が付いたら。
目と鼻の先に肉薄されていた。
「ッッッ!?」
時間が消し飛んだと錯覚する異常な現象。だが、元ジュニア王者の体は反応する。莫大な衝撃に見舞われながらも
手応えは、なかった。
大気に
「背面への攻撃で二点、だね」
後頭部の辺りから聞こえる澄まし声に対し、両手を挙げた陽明は白旗の代わりにラバーソードを横に振る。
「参りました、俺の負けです。まさか
例えば、予備動作。
いくら
まるで水平方向へ落下するみたいな現象。自然界に始めから『そのような物理法則』が存在していたと誤認させるほど滑らかな挙動は、対戦相手に瞬間移動すら錯覚させる。
脱力した状態から繰り出される
それが、
「よく反応したね、流石は僕の弟子だ。でも、本音を言えば
「よく言いますよ、今でも十分に最前線で通用するんじゃないですか?」
「買い被りさ、今の僕にそこまでの力はないよ」
陽明が
「だけど、そんな僕の攻撃を防げなかった。あの一瞬で二点も奪われたんだ。これが試合なら致命的な失点。今のままじゃ珀穂君の相手は厳しいだろうね。
『
慎也と珀穂の二つ名で『魔術師』が共通しているのは何も偶然ではない。二人の師弟関係や
「何よりも、珀穂君はハルと同じ
刀身が氷の日本刀に変化したラバーソードと、骨の髄まで凍て付く凶悪な冷気。
脳裏を過ったのは、先週の練習試合で
「今回の特訓における目的は二つ。一つ目は珀穂君の仮想敵である僕に勝利する事、二つ目は使えなくなっている
「……あー、バレてました?」
「全盛期とは
だからこそ、勝負はお互いが
珀穂の
「本番まで、あと二週間足らずか……」
そう声に出した途端、焦燥感で胸が詰まった。慎也に勝つことは不可能ではないだろうが、
「今更改めて言う事でもないだろうけど……僕はね、ハルにすごく期待しているんだ」
かつて三度も空を制した青年は、暗い顔になった弟子を励ますように言った。
「二年前、君は世界で初めて
「でも、あれは偶然の産物で……それに、豊音の力が大きかったんですよ」
「そうだね、ハルの言う通り
長身痩躯な優男はプールサイドで会話を見守る
「一つ、予言をしようか。『
中性的な美貌に少年のような笑みを浮かべると、陽明を真っ直ぐに見詰めた。
「それに、君の復活は珀穂君の望みでもあるんだ」
「珀穂の……?」
「彼にとって君は、絶対に負けたくない相手であり、常に超えるべき壁であった。すぐ隣に同世代最強の選手がいれば意識しないなんて不可能さ。ハルがどう感じようが関係なくね。珀穂君はあまり自分の事を喋らないから、君には伝わっていないだろうけど」
慎也の言う通りで、記憶を探ってみてもすぐには思い当たる節がない。だけどそう言われても、不思議と悪い気はしなかった。
「さて色々話したけど、僕はこれから二週間、君の復活に全力を捧げる。とは言え、残された時間はあまり多くない。僕には一人でも多くの
ラバーソードの切っ先を陽明に突き付けると、凜とした声を一段低くする。
「ハルが腑抜けた結果しか示せないなら、その時は容赦なく見捨てる。君にもそれくらいの覚悟を持って欲しい」
「望む所ですよ。昔みたいに本気で鍛えてください、先生」
「良い返事だ、ハル……いや——」
湧き上がる興奮を唇の端に湛えると、慎也は熱い闘志を声に乗せた。
「——『
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