残されたもの ②
俺も潤くんも普段は生意気な玲司が甘えてくると可愛くて、ついつい無理なお願いも聞いてしまう。
その頃はまさかそれが大人になっても続くとは思ってもみなかったのだけど、一人っ子の3人が集まるといつだって最終的に一番強いのは最年少の玲司だった。
そんな玲司も潤くんの影響なのか、4年生のときに小学校のバレー部に入部した。
潤くんの家に泊まりに行くと、夕方に3人で近所の公園に行ってバレーをして、一緒に風呂に入ってはしゃぎ、にぎやかに食事をしたあとは安心して同じ部屋で眠った。
本当の兄弟ではないけれど、潤くんと玲司と一緒にいるときだけは、飾ったり取り繕ったりすることもなく素のままの自分でいられた。
自分の家でうまく息ができなかった俺にとって、二人は家族以上に掛け替えのない存在だった。
母との離婚から約4年後、俺が高校2年のときに父が再婚した。
再婚相手は父の病院に勤める看護師で、その人の連れ子の
父の再婚によってできた義弟のおかげで俺は自分の進路を自由に選べることとなり、跡取りの重圧から解放されたと言っても過言ではない。
義母や直人とは表面上仲良くはしていたけれど、父は医者を目指す出来の良い直人を実の息子である俺よりも可愛がっていたので、俺の居場所のなくなった家は、さらに居心地の悪い場所になってしまった。
医者の道を選ばなかった俺のことなど必要ないと言われているようで、俺を産んだあと父に見向きもされなくなった母の寂しさが、なんとなくわかった気がした。
家に居場所がなかった分、外に出るとこれでもかと言わんばかりに誰にでもいい顔をしていたおかげで、友達だけは多かった。
性別も年齢も問わず誰とでも仲良くしたし、誰に対してもできるだけ優しく親切にした。
そして母の言っていた通り、女の子には特に優しくした。
そんな俺に初めて彼女ができたのは中2の時だった。
その子のことが特別好きだったわけではないけれど、好きだから付き合って欲しいと言われ、断ったら傷付けるかなと思ってOKした。
部活が終わってから一緒に下校したり、部活がない日や休みの日には手を繋いでデートもしたし、いっちょまえにキスもした。
彼氏として目一杯優しくしたはずなのに、その子との交際は2か月ほどで終わった。
俺の明るくて優しいところが好きだから付き合って欲しいと言っていたはずなのに、しばらくするとその優しさが自分に対してだけではないことで不安になり、自分以外にも付き合っている人がいるのではないかと疑ってしまうので、付き合うことがしんどくなったらしい。
もちろん俺は浮気なんてしていないから、別れる理由が腑に落ちなかったし、他の女の子に優しくすることの何がいけないのかをまったく理解できなかった。
それでももう付き合えないと相手が言うのだから、『だったらしょうがないね。友達に戻ろうか』と言ってあっさりと別れた。
その後もなぜか誰と付き合っても長続きはせず、いつも同じ理由で彼女から別れを告げられた。
学生時代は告白されて付き合って欲しいと言われて付き合い始め、数か月付き合って別れ、少し経つと新しい彼女ができて、しばらくすると別れて、また彼女ができて……というサイクルを続けていた。
そんなことに慣れてくると、今は好きだと言っていても、きっと些細な理由で離れていくのだろうと思うと誰にも心を開けなかったから、相手のことを深く知ろうともせず、ただ優しい彼氏のふりだけがうまくなって、彼女にフラれても笑って見送ることができるようになった。
母が俺を捨ててまで手に入れたかった恋とか愛とかいうものは、こんなに薄っぺらくて虚しいものだったんだろうか。
一体どれだけ優しくすれば、俺のことをずっと変わらず好きでいてくれるのか。
本気で誰も好きになったことのない俺には、大学を卒業する頃になってもその答えは見つけられなかった。
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