Sell Hope〜希望を捨てた少年〜

山羊

第1話 気配消す


「酒買ってこい!!」


父親の怒声がスイッチとなり、寝ていた僕は、布団から起き上がった。


1Kのボロアパートに散らかるカップラーメンの残骸とゴミの山。


父親から投げつけられたわずかな小銭を握りしめて僕は深夜の街に繰り出す。


辺りを見渡せば、眩く光るネオン街。


酔っ払ったサラリーマン達が、スーツを着た客引きに捕まって、店の中に入って行ってた。


楽しいそうな顔してる。


そんなサラリーマン達を僕は横目で見送り、コンビニまで辿り着いた。


「いらっしゃいませー」


やる気のないコンビニ店員の声。


僕は、コンビニの酒売り場から500ミリの缶を取り、ほかの人に見えないようにレジに持って行った。


「183円でーす。」


やる気のない店員の声。


僕は、わずかな小銭を出してお釣りを受け取り、急いでコンビニを出ようとした。


コンビニの自動ドアが開く間際に、店員達が話してる声が聞こえた。


「なんであんな、小学生に酒を売ってんだ?」


「さあ?オーナー命令だし。噂だと、オーナーとあのガキの親父が知り合いだかららしい」


「そうか。未成年に酒売ってんのバレたらやばいのに知り合いとはいえオーナーもバカだよな」


「知らねえっすよ。俺は雇われのバイトだし。問題になって責任取る為にいるのがオーナーっしょ」


「まあな。あのガキも可哀想だよな。ろくな親の元で育たなくて」


ひそひそと聞こえた店員同士の会話。


僕は聞こえてたが聞こえないフリをした。


それが世の中を生きる術だと、小学生ながらに暗黙の了解で理解してしまっていた。


僕は、コンビニで買った缶ビールをバレないように自分の服の中に隠し、家まで気配を消して帰った。


気配を消すと言っても、誰の存在に気づかないが。


家に帰ったら親父の怒声が再び聞こえた。


「おせえよ!!」


あ。気配消せてなかったや。



つづく

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