第16話 おかしい

数週間仕事が手につかなくて有給をもらっていたが、もうそれもあと3日で終わる。


あの事故後、仕事の同僚が俺のことを気にかけてくれて何度か家に来てくれていた。

その時に、陽剛村の御神酒についての調査があることを教えてくれた。


引っ越すことにはなるが、田舎でのんびり気分を味わえるし、噂程度のものだからそんなに大変な案件ではないはずとのことだった。


仕事を復帰するにはちょうどいいのではないかと提案してくれたので、この村にくることになった。


噂程度と思っていたが、行方不明者が多数出て来てしまっているのでまた一人送り込もうかと話は出ていたが、限界集落とも言える村にそう何度も若い人が来るのも変だとなり一旦様子見になった。


あの御神酒はいい夢を見させるためのまじないのような物で、一切薬物など危険物質は入っていないと報告した。


行方不明者と思われている人は魅流神社で修行中で一切電子機器を使えないから、連絡が取れない可能性が高いと報告した。


怪しいと思っていただけに内部のことがわかると意外とあっさりしているようだった。


あと1ヶ月くらいいて、不審な動きがなければ一旦戻って来いとのことだった。

事件性がなければ一安心ということだろうか。


行方不明になっている人の顔はまだ見れていないが、修行中ということで片付けてしまったのか。

あと1ヶ月で探してあげよう。

知り合いが安心できるように。


昼になり、とりあえず外に出て探索をしてみる。

相変わらず高齢な人々が畑仕事などをしている。


その足で神社の周りを一周してみるが人影はなく、静かで木々が風にそよめく音しか聞こえない。


この間の修行に参加していた人たちは今頃なにをしているんだろうか。

夏休み中はいるかもと言っていたから、あと2週間くらいいるのだろうか。


まあまたあとで来よう。

頻繁に行きすぎて怪しまれても仕方がない。


そういえば、光田商店に行かなくては。

おじいさんに話聞こうと思っていたんだった。


最近物忘れが多くて困る。

今日思い出せてよかった。


なるべく光田商店を行く1つの道で人と会わないように注意深く歩いていく。

今日は誰とも会わずに来れたのでこれでようやくお話が聞ける。


商店の中に入り、レジへ向かうとそこには知らないおばあさんが座っていた。


「あのー…。」


「はい、タバコかい?」


とおもむろに立ち上がりタバコのコーナーに行くおばあさん。


「あ、いえ、光田のおじいさんって今日はいらっしゃらないんですか?」


おばあさんは少し寂しそうな顔をして


「旦那は亡くなりました。」


「え?」


私がちょうど神社の手伝いをしていた時に持病の心臓病で亡くなっていたらしい。

まさかあの一度きりしか会えないとは。


奥さん謝り、外に出て家に帰ることにした。


夕方になりだんだんと日が暮れて、家に着く頃は真っ暗になっていた。

玄関を開けようとポケットの中を漁っていると

足をずって歩いてくる音が聞こえる。


誰だろう?一応挨拶しておくかと思いその音が聞こえる方へ顔を向けると中江さんが体をぐわんぐわん揺らしながら歩いている。

今にも倒れそうな感じだ。


中江さんに寄り添い体を支える。


「大丈夫ですか?家まで送りますよ。」


「ああ?あはは…、…き…くれ。」


「ん?もう一度お願いします。」


「御神酒だよ、酒だ酒。早く出してくれよ。幸せが終わっちまう。」


なんなんだ。中江さんなのに中江さんじゃない。


中江さんの家に着き家に入ると、御神酒と同じ瓶が5本部屋に転がっていた。


「なあ、酒くれよ…、幸せが…終わる…怖い…怖い…。」


布団に倒れ込み体を恐怖で震わせている。

とりあえず水を飲せる。


「これじゃねえよ。」


飲んでいる途中でグラスを持っていた手を叩かれる。

思わず落としてしまった。


「すみません。お酒、見当たらないんです。」


「じゃあ買って来てよ。」


睨むように私のことを見てくる。


「わかりました。その間、ちゃんと家にいてくださいね。」


「酒くれるなら、逃げねぇよ。」


「ちゃんと待っててくださいね。」


急いで自分の家御神酒を持っていき、おちょこ一杯分を注ぎ渡す。


「足りねえよ。」


といいコップ一杯分を入れグビっと一気のみした。


「ありがとうよ。」


と言って中江さんは眠りについた。

絶対この御神酒がおかしい。


その足で魅流神社に向かった。

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