第74話 クルーズ船

大型のクルーズ船が沈没しかかっていた。


脱出用ボートには人が殺到し、相争って収拾もつかなくなっている。


元々、全員が乗れる分の脱出用ボートはないのだ。


それは最初に説明をうけている。残りは救助用の船が来るのを待つ、


ということだった。


しかしすでに無線は壊れ、大海原に他の船はみえない。


脱出用ボードに乗らない限り、助かる術はない。


しかも、この状況では相手を殺してもいい、それが法律だ。


浮かんでいる板に二人がつかまると沈んでしまう。


その場合、相手を殺して自分が助かっても罪にならないのである。


船上ではすでに殺し合いが始まっている。


子供は真っ先に殺されるか、人質にして親に自殺をせまる。


女性も先に殺された。今は男たちが互いに殺し合う。


そして、ボートに乗れる人数を下回っても、尚も殺し合う。


だって、殺しを見られた相手であり、生かしておくわけにはいかないから。


なまじ脱出用ボートがあり、全員乗れないことで起こる悲劇。


今や大型の狂う図船になってしまった。

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