第67話 すれ違い

さっきすれ違った男の人は、どこかで会った気がする。


もう夜、自宅へと帰る道すがらで、顔もよく見えなかったけれど、


近所の人というのでもなさそうだ。


もう時間も遅いので、それほど人とすれ違うこともない。


だから余計にめだった。目についた。


それに、こんな時間に住宅街から駅へと向かう人もいない。


どこで見かけたんだろう……?


そんなことを考えながら歩いていたら、車に撥ねられた。


思い出した……。いや、その言葉は間違いだ。逆だった。


車に撥ねられたとき、その運転席にすわっていた男の顔だ。


私は撥ねられてから、夜の街を歩いていた。幽体となって……。


考えていたから車に撥ねられたのではなく、あの男のことを


思い出したから、車に撥ねられるシーンにもどってくる。


私はいつの間にか、あの男にとり憑く悪霊となっているのだ。


でも恨みを返せない。だって、思い出すと時間がもどってしまうから。


そうしてあの男に憑きまとう。私を撥ねた、あの男のことを


誰だか気づかないまま……。

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