第65話 枕元

子供のころは、夜が怖かった。


得体の知れないものがいるようで、布団をかぶって寝た。


実際、そのころからずっと夜になると、私の枕元には男の人が立っていた。


それに気づいたのは、少し大きくなってから。


最初は怖かったけれど、毎日のことなので、そのうち慣れた。


また今日もいる……。それが当たり前になると、挨拶すらするようになった。


じっと見下ろすばかりで何もしない。


朝になると消えている。そんな幽霊だった。


ある日、寝ようとして電気を消すと、いつもの男の人とは別に、


女の人が立っているのに気づく。


その女の人は、男の人につかみかかると、抵抗する男の人を組み伏せ、


そのまま頭から食ってしまった。


その日から、私のことを見下ろすのは女の人になった。


そしてまたある日、女の人が老婆に食われてしまった。


そして老婆も、若い男の人に食われてしまった。


枕元に立つ幽霊は、私のことを見守っているらしいけれど、


私の人生の節目になると交替するようだ。


生徒会長選挙に立つとき、独り立ちするとき、三十而立のとき……。


それに、こんな幽霊が枕元にずっと立っていたら、結婚もできない。


そのうち、薹が立ってしまった。

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