第62話 自転車

私は自転車に乗って出かけることが多い。


俗にいうママチャリで、オシャレ感などないけれど、


これは脚につかうもの。道具だ。


特に盗まれることも多いので、これで十分だった。


マウンテンバイクや、ロードバイクなんて、私の柄じゃない。


ハンドルが上に向いているので、姿勢よく乗れる点もいい。


ギアなんてなくても、その分軽くていいのだ。


その日、私は急いでいた。そういうときも、自転車なら飛ばせる。


ただスピードが出ていたとき、目の前に車がとびだしてきた。


私は避けようと、ハンドルを切った。


しかし車の方が速く、正面からぶつかってしまった。


スピードをだしたもの同士がぶつかったら、慣性の法則とやらで、


前方へと投げ出されるものだ。


ハンドルを切ったまま、体が前方に投げ出されたら……。


お腹にそのハンドルが突き刺さってしまう。


脚につかうものだった自転車が、私のお腹から生えている


脚みたいになってしまった。

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