第60話 真っ黒な人

私は時々、真っ黒な人をみかける。


それは全身が真っ黒で、影などではなく、本当にただの黒だ。


しかも小さいものから、大きいものまでいて、


人混みの中など、お構いなしでいる。


ただ、私以外の人には見えていないようで、


足元でちょろちょろしていたり、誰かの隣に立っていても、


誰もそれを気にすることなどない。


私にみつかったことを意識すると、真っ黒な人は慌てて逃げる。


どうやら、誰かにみつかってはいけない、


という暗黙のルールのようなものがあるようだ。


なぜなら、彼らは悪さをしているから。


人間が怪我をするとき、彼らはそれを誘導する。


何もないところで躓くときは、小さな段差をみせないように隠す。


ぼーっとして何かにぶつかるときは、その何かを見せないように隠す。


真っ黒な人は、そうやって誰かの目の前で、危険を見せないようにする。


だから、彼らが見えるとそういう失敗を防ぐこともできた。


ただ、彼らにとって目障りな私のことは、目隠しをするのではなく、


目の敵にされた。


ささいないたずらでは済まず、常に命の危険が生じていた。


そうして追われるうち、私は気づいた。


あの真っ黒な人は、その人本人だった。


危険を隠しているのではなく、危険をみていないことを暗示していた。


じゃあ、私を追うあの真っ黒い人は、誰なのだろう……?


私を危険に陥らせようとする、あの真っ黒い人は……。


やっぱり私本人だった。でも、それを知ることができたのは、


私が死んだ後のことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る